日本人が「国境なき医師団」で実は重宝される訳 作家のいとうせいこう氏に聞く

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2016年、欧州に押し寄せる難民対策でEU-トルコ協定が結ばれると、その不平等な内容にMSFは抗議し、EUからの資金援助を断ちました。この協定が難民たちの希望を遮断してしまった。彼らはひたすら歩いて、危険な船で渡ってくる。異常な精神状態下で起きるのはレイプ、強奪、病気、ケガ。地獄です。そこでMSFが重視しているのが、メンタルケア。難民・患者たちにはもちろん、残酷な光景を目の当たりにしてしまったスタッフに対しても。

偽善でも何でも役に立てればいい

──サポート体制の盤石さは、確かに想像以上でした。

その人がどれくらい傷ついているか非常に注意深く診て、メンタルケアしてから帰国させます。

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メンタルケアに関して言うと、日本はそれがない。南スーダンに派遣された自衛隊で自殺者が多く出た理由もそれです。心のケアは絶対必要。避難所で雑魚寝を強いられるうえに何のケアもされない日本の被災者のほうが、ウガンダの難民よりも状況がひどい。みんな我慢しているから私も我慢しようって、そんなこと被災した人たちに思わせちゃいけない。

──ぜひ伝えておきたいことは?

みんなの寄付はちゃんとした形で一つひとつの薬、注射、ピンセット、水になってデカい倉庫に保管されているのを見てきました。「本当に少ない寄付なんです」って申し訳なさそうに言う人が多いんだけど、1000円でどれだけのワクチンが買えるか。包帯だったら何百本か。それが赤ちゃんやお母さんに巻かれているから誇ってくださいよ、という気持ちなの。寄付っていまだに偽善みたいに取られるけど、偽善でも何でも役に立てればいいでしょ。僕、役に立っている姿を見てきてますから。

それから、みんな参加できるんだってこと。言葉なんかみんな最初はできなくて、勉強して何度目かの再挑戦で採用されて、今すごく充実した日々を送っている。年取ってやることないなんて、とんでもない。お医者さんだったらむしろ昔取った杵柄(きねづか)で、聴診器1つで治せるほうがいいんです。現地にレントゲンだのMRIだの絶対ないから、触って骨折だとわかるお医者さんこそ役に立つ。なので今60〜70代のお医者さんや看護師さんに向かって、あなたは選ばれし人です、って書いといてください。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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