「認知症」で別人格になった母を介護できますか 小学生の娘との関係も悪くなってしまった

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桜井さんは時間を作って帰省し、母に付き添って病院へ行った。すると医師は、「お母さんは自殺する可能性がある。どなたかそばにいられませんか?」と言う。「東京の私の家へ連れていくか、入院するのはどうでしょうか?」と桜井さんが尋ねると、母が家を離れるのを拒んだ。仕方がなく東京に戻ると、また電話に悩まされる日々が続く。

ところがある日の電話で、「私、入院することにするわ」と母。桜井さんは面食らいつつも、翌日、娘を夫に預けて入院手続きに向かった。東北の実家までは、東京からドアツードアで5~6時間くらいだ。

それでも桜井さんは、2週間に1回は母の見舞いに通った。当初桜井さんは、3カ月もすればよくなると思っていたが、だんだん表情がなくなり、院内で転倒を繰り返し、ついに車椅子状態に。

その頃、母が入院していた病院の看護師から、「介護保険を申請してみたら?」と勧められる。

「当時の私は『介護保険って何?』という感じでした。ソーシャルワーカーさんからそんな話は出ませんでしたし、地域包括センターに相談するという知識もまったくなかったんです」

桜井さんは急いで調べ、「介護認定を受けたい」と主治医に相談。すると、認知症の検査をするため、CTを撮ることになった。検査の結果、脳の一部である「前頭葉」や「側頭葉前方」の委縮がみられ、「前頭側頭型認知症」と診断が出た。

「前頭側頭型認知症」とは?

「前頭側頭型認知症は、進行が早くて余命が短く、アルツハイマー型と違って本人の記憶はしっかりしています。文字も書けて会話もできるのですが、ほかの人が理解できないようなこだわりを持ち、ささいなことを大問題のように受け取るんです」

脳の中で前頭葉は主に、「人格・社会性・言語」を、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」をつかさどる。そのため「前頭側頭型認知症」を発症すると、①社会性の欠如や自分に対して抑制が利かなくなる ②同じことを繰り返すことや感情が鈍麻する ③自発的な言葉の低下、などの症状が起こる。

「夫は東京を離れられないので、娘と2人で実家に帰ろうかと悩みましたが、娘にも夫にも影響が出てしまう……」。当時はスタッフによる通院付き添いができない施設に入っていたため、通院の日は桜井さんが付き添うしかなく、悩みながらも2週間に1回、ときには毎週東北まで通った。

朝、娘を学校に送り出してから新幹線に飛び乗る。放課後は学童に預けたが、桜井さんの区の学童は17時で閉室。14時頃通院付き添いが終わって母を施設に送り届け、すぐに新幹線に乗っても、家に着くのは19時頃。ファミリーサポートを可能な限り利用したが、突然の利用は難しい。夫は残業で帰宅は毎晩深夜になるため、ママ友に娘をお願いすることもあった。

冬の東北は雪が多く、通院するにもひと苦労だ。雪が積もると母が外に出たがらない。雪で新幹線が止まったときはとても困った。

施設に入る前は、「ここでリハビリを頑張って、春になったら家に帰ろうね」と話していたが、追跡妄想や被害妄想が出るようになってしまい、自宅に帰ることは難しくなった。

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