「『そこのカメラが監視してるの』とか、すれ違う人の顔を見て、『あの人私を見てる』とか言うんです。『今日こういうことがあってね、私が疑われているの。スタッフさんに相談したけど変なのよ』という相談をされたときは、時系列も登場人物の名前も合っているので、最初は私も信じてしまって、施設に問い合わせたら『お母さんの妄想なんですよ』とスタッフさんに説明されて、すごく怖くなりました。
だんだん妄想が攻撃的な感じに変わってきて、母が何かとんでもないことをしてしまうんじゃないかと不安でした」
結局もとの病院に再入院し、薬を飲むようになったら少し落ち着いてきたので、退院して別の施設に移ることができた。
「施設をコロコロ変わって落ち着かなくて、最初の1~2年がとくにつらかったです。母はまた歩けるようにはなったのですが、変な妄想が治らず、共同生活ができません。どこの施設に移っても『ここもグルだわ』。新しい病院へ行っても『あ、ここにもいる、ここもだめよ』と言って病院を飛び出してしまい、私と母の友達2人がかりで取り押さえたこともありました」
遠距離介護の限界
桜井さんが住む東京で、母が暮らす東北の施設や病院を探すことも難しかった。
「多くの病院は次の病院や施設を探してくれないし、事前に見学にも行かなければなりません。子連れでの見学は断られることも多く、入所できたとしても、子どもの面会は禁止されている施設もありました」
「前頭側頭型認知症の患者さんは対応しかねます」というところもあり、桜井さんは特養からケアハウスまで、10施設以上見学した。
「ファミリーサポートは、小学生未満までなら居住地にかかわらず使えますが、娘はちょうど1年生になったばかり。夫に預けられないと連れていくしかなく、通院付き添いは2~3時間はかかりますが、低学年の娘には耐えられず、『トイレ』『お腹空いた』『つまんない』。夏休みにせっかく娘と東北に来たなら、母の面会だけでなく遊ぶところにも連れていってあげたい。でもそうすると用事がこなせなくなるし……と、両立は大変でした」
母に会わせようにも、ちょっと娘が小さな玩具を床に落としただけで、「静かにして!」と言い放つ。そのため娘も「おばあちゃん顔が怖い。嫌い」と言うようになってしまった。
「母はいつもイラついていて、自己中心的でネガティブな人になってしまいました。主治医に前頭側頭型認知症の患者への接し方を聞きましたが、治療法も、原因もわからないみたいです。家族会はありますが、前頭側頭型認知症は50代前後の若い人に多く、母のような60代後半や70代以上は珍しいそうです」
そのため家族会に参加しても、同年代の人に会うことはほぼない。ましてや、桜井さんは遠距離介護だったため、遠距離介護中のダブルケア当事者に会えたことは一度もなかった。
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