日本とアメリカ「シンクタンク」の決定的な違い 数を増やし政治経済への影響力を高めた要因

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宮田:確かに両者の関係は緊張を孕んでいます。トランプ政権の保護主義的な経済政策や過激な移民政策は、経済の自由と個人の自由を尊重するリバタリアンであるコーク兄弟にとって受け入れられるものではありません。

船橋:共和党内での対立の1つでもあるのでしょうね。

宮田:そうです。

船橋:トランプの一国主義的かつ白人優先の差別的な政策を理論化するようなシンクタンクも登場しているのですか。

宮田:私が知る限り、そのようなシンクタンクはまだ出てきておりません。が、注意しなければならないのは、トランプ現象と軌を一にして、イスラム教に偏見を持ち、アメリカ国内におけるイスラム教徒の脅威を盛んに訴えるイスラムフォビアのシンクタンクが台頭していることです。ご存じのとおり、トランプ政権ではシンクタンクの存在感は決して強くありません。しかし、イスラムフォビアのシンクタンクに関しては、2016年大統領選挙の頃からトランプ周辺に深く食い込んでいます。

過去30年で急増したシンクタンク

船橋:なるほど。シンクタンクの在り方も、いろいろな意味で変わりつつあるわけですね。ところで、宮田さんは著書の中でアメリカを「シンクタンク超大国」と表現されていますが、なぜ、アメリカでこれほどまでにシンクタンクがその数を増やし、政治経済への影響力を高めたのでしょうか。

宮田:主な要因は3つあります。1つは制度的な要因です。アメリカの官僚制は政治任用制で運営されていますから、外部の専門家を政府に取り入れます。つまり、専門家の需要があるということです。政権が交代すると前政権の官僚は政府外に去り、新たなスタッフで政府組織を再編します。シンクタンクはそうした政府高官の供給源となる一方で、政府から去った人材の受け皿ともなっています。

アメリカでは議員立法も活発ですから、同時に、立法府、つまり議員にも外部専門家に対する高い需要が存在することを忘れてはいけません。

2つ目は財政的な要因です。シンクタンクをはじめ非営利団体が税制面で優遇されていること、そして財団や富裕層の支援がシンクタンクを財政的に支えています。

そこに、先ほどお話しした、政治変動の影響、すなわち保守派の台頭とリベラル派の巻き返しという要因が加わり、アメリカにおいてシンクタンクが拡大したと、私は理解しています。ただ、それは、決して古い話ではなく、比較的新しい現象です。

アメリカには1000を超えるシンクタンクがあると言われますが、これだけの数のシンクタンクを抱えるようになった最も重要な要因は、1970年代に保守派のシンクタンクが生まれ、それを受け、20年遅れてリベラル派が覚醒し、同じようにシンクタンクを作り始めたことです。そうした経緯があって、過去40年あまりで、シンクタンクの数が急激に増えていきました。

(後編に続く)

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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