船橋:そのヘリテージの背景と言いますか、ヘリテージに限らず、アメリカでシンクタンクが影響力を強めてきた背景について少し深掘りしていきたいと思います。
もちろん、政治家がそれを必要としたということもありますが、一方で、コーク兄弟(アメリカの実業家、政治活動家兄弟。兄のチャールズ、弟のデイビットはともに『フォーブス』誌の2019年世界長者番付で11位タイにランクされ、総資産はそれぞれ505億ドルとされる)に見られるように、莫大な資産を持つ人が、彼らにとって理想的な社会を実現させるために、リバタリアン(個人的な自由と経済的自由の双方を重視する政治的立場)的なシンクタンクを作って、自由主義的な政策を理論化したり、政策起業家を育成したりという側面もあるように思えます。
つまり、そうした資金が、シンクタンクが影響力を強めてきた背景にはあるようです。そして、それは1970年ごろから始まって、80年代に加速化していく、どうもものすごい富豪が生まれ、貧富の格差が拡大していく流れともも関係しているように見えますが、その辺りはどうお考えですか。
「一般人からの寄付」も忘れてはならない
宮田:シンクタンクの背景に、政治的に非常に活動的な富裕層の存在があるのは、ご指摘のとおりだと思います。1960年代から70年代にかけて、そうした富裕層が出始めました。保守派では、スケイフ、オーリン、ブラッドレーといった財団や富裕層が徐々にシンクタンクの設立を支援したり、保守系のメディアに資金援助したりするようになり、1980年代に入って大きく成功しました。そして、90年代に入ると、リベラル派も保守系のシンクタンクの成功に危機感を持つようになり、その流れに同調したのが、ジョージ・ソロス(ハンガリーとアメリカの国籍を持つ投資家)をはじめとするリベラル派の富裕層です。
ですから、今日では、保守の共和党とリベラルの民主党の双方が、政治的に非常に活発な富裕層に支えられたシンクタンクを活用しています。資金源がしっかりしているので、シンクタンクの経営は盤石だということもあります。
一方で、資金源について忘れてならないのは、一般の人々の寄付です。ヘリテージ財団は保守派の財団から資金提供を受けてスタートしたシンクタンクですが、近年では個人会員の獲得に力を入れ、今では確か数万人の会員がいるはずです。したがって、イデオロギー色の強いシンクタンクの背景にある勢力を考える場合は、富裕層だけではなく、政治的に活動的な一般市民の存在も見逃せません。
ちなみに、コーク兄弟については確かに有名な存在で、長年にわたりケイトー研究所をはじめリバタリアン勢力に莫大な資金を投下してきました。ただし、彼らの存在が広く知れ渡るようになったのは最近のことです。そもそも、オバマ政権発足以前は2人の情報は非常に限られていました。オバマ政権発足後、そのリベラルな政策に反対する、草の根のティーパーティ運動が活発になりましたが、リベラル派の人々や民主党からその黒幕と名指しされたことで、コーク兄弟の知名度が一気に上がり、「共和党を牛耳る大金持ち」などと一般的に認識されるようになりました。
船橋:しかし、トランプとコーク兄弟は不仲ですよね。コークは大統領選でもトランプを支持しませんでした。この辺りはどう考えればよいのでしょう。
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