「人生にときめかない50男」に欠けた心の断捨離

「不幸な50代」「幸せな50代」を分ける境目

「それ以上考えない」と、強烈な意志をもって決めるのです。それでも、またムクムクと記憶が首をもたげてくることがあります。

そうしたら、「これについては、もう考えない!」と「1秒」で意識から振り落とす。私はこれを習慣的にやっています。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のように、あたかも私の心にぶら下がった糸をたどって嫌な記憶がよじ登ってくる。「また来たか! もうお前とは縁を切ったはずだ」とハサミでチョキン!と切る。

嫌な記憶は真っ逆さまに谷底に落ち、消えていくというイメージです。迫力をもって切ることが重要です。

不思議なもので、こういうことを繰り返すうちに、次第に本当に忘れてしまいます。いつしか記憶はすっかり風化して、心のごみ箱の中に完全に収まってしまいます。そうやって「心の断捨離」をしていきます。

忘れられない記憶は「再編集」する

それでもどうしても消し去れない過去もあるでしょう。バッテンをつけて忘れようとしても、なかなか忘れられない。そんな場合には「記憶の再編集」という手段があります。

勝手に編集して、別な物語に変換してしまうのです。例えば、別れた相手をどうしても忘れられない。つらい失恋の記憶はいつまでも爪痕を残します。新しいパートナーができればよいのですが、そう簡単にいかない場合もあります。

そういうときには、あえてベタな演歌を聴いてみる。別れて北の最果ての地に行ったり、未練や心残りを歌っている演歌を聴いてストーリーに自分をなぞらえる。時には声を出して歌ってみることで、自分の体験がそのフィクションの世界に溶け込んでいくのです。

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そして歌ってみることで、グジュグジュとした感情の塊が、演歌のストーリーの世界に入り込み、一種の昇華作用が起きる。すると思い出自体が深刻なものから、フィクションの世界のロマンチシズムに彩られて、深刻ではなくなっていきます。生えかかっていた「うつの雑草」がなくなり、不思議に前向きな気持ち、気力が湧いてくる。

このことはニーチェが『悲劇の誕生』という著作の中で明らかにしていることでもあります。ギリシャ悲劇は古代ギリシャ時代に誕生した演劇の1つのジャンルですが、仮面をつけた俳優と、舞踊合唱隊であるコロスの掛け合いで進行します。

この悲劇、とくにコロスの合唱は、人間が本質的に持っている悲劇性を昇華させる役割があるとニーチェは言います。ギリシャの人たちは劇場で演じられる悲劇を観て、その歌声を聴くことで、日ごろの労苦、人生のつらさや悲しさをその壮大なフィクションの中で昇華させたのです。

歌や音楽、演劇といった芸術、芸能には日常の心の荷物を昇華させ、軽くさせる力がある。ですから映画でもいいし落語のようなものでもいい、芸術や芸能、一部の娯楽のフィクション、ストーリーによって現実を溶け込ませ昇華させてしまう。生々しい過去を色づけし加工することで、重荷ではなく1つの思い出に変換することができるのです。

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