中国の8%成長維持は難しい、景気対策の4兆元投資は時代遅れ--茅于軾(ぼううしょく)・北京天則経済研究所理事長
経済の急激な失速を機に、中国ではその構造問題をめぐる議論が激しく行われている。その論争に、現状への最もラディカルな批判者として参加しているのが80歳の茅于軾氏だ。一貫して公有制経済を批判し、市場経済体制への移行を強く主張してきた経済学者である。その硬骨漢ぶりと清廉な人柄から「経済学界の魯迅」と呼ばれる茅氏は、中国経済の現状をどう見ているのか。
--4兆元に上る景気刺激策は世界の注目を集めていますが、この政策をどのように評価していますか?
1997、98年のアジア金融危機当時に採用した政策の繰り返しだ。あのとき中国はデフレに直面し、政府は高速道路、空港、水力発電所などのプロジェクトへの公共投資で対応した。しかし、私は現在の状況に古いやり方で対応するのは適切ではないと考える。
まず認識すべきなのは、今日の中国経済で最も深刻なのは就業問題だということだ。公共事業では長期的な就業問題を解決することはできないだろう。4兆元政策が目的としているのは成長率のテコ入れであって、就業問題の解決ではない。
二つ目は、中国のインフラはすでにインド、ブラジル、ロシアなどと比較して相当優良な水準にあるということだ。中国の高速道路は総延長5万キロメートルを超えるが、ほとんど車が通らない路線も数多くある。鉄道はまだ整備していく必要があるが、全体としていえば意味のある公共投資プロジェクトは少なくなった。
三つ目は、今回の金融危機で中国が外部から受けた影響には相当な「地域性」がある、つまり地域によってギャップがあるということだ。たとえば、広東省、江蘇省、浙江省、福建省、山東省など沿海部は相当な打撃を受けたが、東北地方や四川省といった地域は多少の影響はあっても、これまでの発展速度を維持している。
4兆元政策をめぐっては国内でたいへんな議論が起きているが、その焦点は就業問題だ。中央政府もやがては就業問題に重点を切り替えるのではないか。
--中国の景気減速は米欧の影響というだけでなく、内的要因が大きいという見方もあります。
その見方は正しい。今回金融危機が発生する前、中国経済はすでに大きな調整に直面していた。2007年上期、あるいはもっと早い段階で調整の必要があった。原因は簡単で、割安な人民元レートが貿易黒字を継続的に発生させてきたことだ。
輸出に依存した発展は続かなくなっており、金融危機がなくてもいずれ問題が顕在化しただろう。金融危機が起きて、この問題がさらに深刻になった、緊迫感を増したというのが正しいだろう。輸出加工企業などの受注は明らかに減少している。内的、外的な要因が重なり、中国経済の構造調整の問題をより深刻化させたといえる。
--中国政府は8%成長を死守する構えです。
現在優先的に解決すべきは就業問題であり、次に環境保護だ。しかし政府部門、中でも地方政府はGDPにしか関心を示さない。成長率でしか業績を示せないからだ。就業問題や環境問題のプレッシャーが彼らに変化を促す可能性もある。
私は09年の8%成長は難しいと見ているが、就業や環境保護で改善が見られるならば、成長率が少し落ちることは問題ではない。ただ、両方ともできないとなると、状況は深刻になる。
--これまでは外需が中国経済の成長を支えてきました。
中国経済には構造上の問題がいくつかある。まずは外需に依存しすぎ、内需が足りないこと。そして内需においては投資が大きすぎて、消費が少なすぎることだ。
次に、われわれは労働力の安さに依存し、環境を犠牲にして高成長を保持してきたが、このモデルはもう長くは続かない。
三つ目に、分配の問題が挙げられる。最近10年間の分配の変化を見てみると家計への分配がどんどん下がり、政府部門と国有独占企業への分配が増えている。
こうした三つの構造上の大問題に対しては相応の調整を図らなければならない。高所得者の収入増のペースが速すぎるという問題もある。