中国の8%成長維持は難しい、景気対策の4兆元投資は時代遅れ--茅于軾(ぼううしょく)・北京天則経済研究所理事長

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--現在中国には2億人以上の農民工(出稼ぎ労働者)がいますが、その就業問題が深刻です。

大きな問題だ。都市で相当長い時間働いた農民工は、農村に戻り畑を耕すことにはもはや適応できなくなってしまった。よって、仕事があろうがなかろうが、彼らは都市に出てくるしかない。

私は中国の農村から都市への人口移転はよりスピードアップすると見ている。過去よりも都市は大規模化し、それだけ多くの農村人口を吸収できるようになってきた。

最新の統計では、都市住民と農民工を含めた農村の人口はそれぞれ6億5000万人ずつだ。改革開放が始まった30年前は農村人口比率が80%だったが、それが50%まで下がった。これから30年の間に農村人口の比率を10%以下まで減らすことは、十分に可能だ。

ただ、これは都市における「就業の創出」の速度いかんにかかっている。つまり、都市における雇用の創出と、農民の都市への流入のバランスを取らなければならないということである。仮に、雇用創出が遅く、農民の流入が速ければ、都市で大量の失業が発生し、大問題になる。逆ならば、労働力の供給不足が生じる。

--農民が都市に移転するうえでまださまざまな障害があるのでは。

移動すること自体はとても自由だ、今日では何の障害もない。問題は、彼らが都市に定住するのが難しいということだ。

私は農民工向けに、月300元くらいの家賃で住める「低家賃住宅」を提供するべきだと提言してきた。政府は都市住民向けに分譲する「エコノミー住宅(経済適用房)」ばかり造っている。だが、農民工が一生働いても家を買うほどのカネは貯まらない。彼らには手が届かないから農民工の住宅問題は解決しない。

にもかかわらず、政府が「エコノミー住宅」にこだわり続けるのは、政府幹部が容易にそれを購入できるという利権の存在と無関係ではない。極めて間違った政策だ。

--農民が都市に出てきても、何らかの技術がなければ仕事に就けないのではないですか。

だからこそ、政府は成長率を追うのではなく、就業を生み出すための政策にシフトすることが必要なのだ。都市にはそのチャンスが、実際にはたくさんある。

私は農村出身の女性に家政婦としてのトレーニングをする学校を運営しているが、家政婦の供給は需要に追いついていない。彼女たちの報酬はちょっと前に月700元から1000元に上がり、今は1200元まで上がっている。供給が不足しているからだ。

たとえば医療費や教育費がこれだけ高いのも、要は供給不足でミスマッチが起きているからだ。そういう分野には大きなチャンスがある。問題は、農村からの労働者を訓練する仕組みがないことだ。家政婦なら1カ月で十分だが、自動車整備工になろうと思ったら研修に1年かかる。

政府はこうしたミスマッチを解消し、就業機会を増やすための投資をすべきなのだが、彼らはインフラにばかり投資したがる。こういった分野には民間の資金を導入するしかない。そのためには、健全で小回りの利く金融市場が必要だ。

地下金融の市場を合法化させれば、民間資金を吸収し、サービス産業のような小規模なビジネスに融資ができるようになる。

実際、浙江省の地下金融はとても発達しており、民間企業は国有銀行ではなく、地下金融に依存している。これらが合法化され健全に成長することが望まれる。そのことでさまざまな問題が解決できるのだ。あとは中央政府が行動に移せるかにかかっている。

Mao Yu Shi
1929年南京生まれ。50年上海交通大学機械学科卒。文化大革命中、工場労働の傍ら経済学を独学。79年に『最適配分の理論』を公表し50歳にして経済学界にデビュー。93年に中国社会科学院を退職後、北京天則経済研究所を設立。同年に非営利法人・富平学校を発足させ、これまでに計1万5000人の農村女性に職業訓練を施してきた社会起業家でもある。

※次ページで茅于軾の詳しい紹介をしています。

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