斜陽の「呉服」を売上12倍にした商売のカラクリ 「着物離れの理由」を徹底分析した振袖の一蔵
それでは、どうやって一蔵は売り上げを伸ばし続けているのか。一蔵は、1991年に着物事業(呉服の販売)で創業したが、現在、東証の業種分類としてはサービス業。要は、着物の販売・レンタルの和装事業を主力事業としながらも、ウェディング事業なども展開し、成人式の写真撮影も手がけている。事業の多角化が特徴だ。
しかも、その多角化戦略が非常に明確である。「新規開拓×販売×リピート」を徹底している。一蔵は、現在、和装事業とウェディング事業を手がけるが、このうちの和装事業では、呉服や振袖などの販売が売り上げ高の約半分を占めている。
モノが売れない時代にあって、呉服や振袖が売れるのは、レンタルや成人式アルバム撮影、着付け・着方教室で、潜在顧客層を新規開拓しているからだ。レンタルや着付け・着方教室で、これまでの着物に親しんでいなかった顧客を新規に開拓し、新規顧客に呉服や振袖を販売し、さらにリピーターになってもらうという取り組みを徹底している。
具体的には、一蔵をはじめ「オンディーヌ」や「ラブリス」といった店舗ブランドで、新成人の女性をターゲットにレンタル、成人式アルバム撮影、成人式当日の着付けなどを手がけ、「銀座いち利」では着付け教室、「いち瑠」で着方教室を展開。着物を「着てみたいが着方がわからない」潜在顧客層にアプローチしている。
なかでも着方教室の「いち瑠」は、1レッスン500円という低額の受講料で、「着物文化の底辺を広げる」重要な役割を担っている。着方を習っているうちに着物が欲しくなる生徒が多く、いち瑠では着物の販売や仕立てが、じつは収入源となっているという。また、2016年に買収した「京都きもの学院」で着物文化を広げ、ネットで買いたい顧客には、通販ブランド「いち利モール」を展開している。
「着物を着ない8つの理由」を完全払拭
一蔵はマーケティングにも取り組んでいる。ウェブコミュニティ「SAKURA学園」を運営し、17~20歳の女子向けに成人式で振袖を着てもらうことを提案。全国約900の大学サークルが加盟する「学祭・サークル応援NAVI」も同じ目的で運営している。そして、成人式後のフォローとして、振袖を着た女性に和服を着て歌舞伎鑑賞を楽しもうといったイベントを開催するなど、呉服や振袖を一度でも着た人に「着物との接点」が持続するようなサービスを展開している。「リピーター」になってもらうための取り組みだ。
こうした取り組みで、一蔵は「着物を着ない理由」である「8つの『ない』」をなくした。8つの「ない」とは、「価格が高くて買えない」「気に入ったデザインが見つからない」「どこで購入すればいいかわからない」「気軽に入れるお店がない」「着付けができない、着こなし方がわからない」「着る機会がない」「手入れの仕方がわからない」といった、着物を着ない理由のこと。
これらを解消し、着物を売るだけではなく、「着物を楽しむ」「自分で着てみる」という体験も同時に売る。「モノからコトへ」の取り組みを実践しているのだ。
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