患者の持っているこのような力を医療に活かそうと、医療チームの中にエキスパート患者(expert patient;熟練患者)を招いて活用する病院が生まれている。『BMJ(英国医師会雑誌)』2019年8月14日号には、ローマ市サン・カミッロ病院多発性硬化症センターで、医療チームの中にエキスパート患者として参加して奮闘するパオラ・クルーガー氏の記事が掲載されている。
クルーガー氏は、次のように述べている。
「エキスパート患者は医療職の仕事を補助するために働くのではない。エキスパート患者という1つの専門家として働いていることを誇りにしている」
医師や看護師にとっても有益
彼女の活動により、患者は不安が少なくなり、医療を受け入れて服薬や治療の開始・継続が可能となり、さらに病気を抱えていながら生きるための勇気と知恵をえているというのだ。また、治験への参加でも、患者の視点からの助言をおこなっている。そして、このことが医師や看護師にとっても有益なものとなっているという。
日本では、医療機関の中で活躍するエキスパート患者はまだ少ないのが現状だ。「環境汚染等から呼吸器病患者を守る会 エパレク」(expert patient in respiratory care)はその1つである。エパレクでは、訓練を受けた熟練の喘息患者が同病の患者初心者を支援し、自己マネジメントできるようになることを目指して活動をしている。
一方、病院の中で活躍する熟練患者は多くはない中で、患者会などにおける患者同士の交流は日本でも活発になってきた。
患者会の活動はさまざまなものがあるが、日本難病・疾病団体協議会(JPA)のホームページには、患者会の役割を次の3つに分類している。
これらの役割は、今後その比重が時代とともに変遷していくことになると考えられる。以下、それぞれについて解説する。
1、病気を正しく知ること(情報の提供)
インターネットの普及により患者の情報の収集の仕方も大きく変化してきた。単に病気の情報をえることだけが目的ならば、患者会に参加をしなくてもよい時代が訪れている。
一昔前は、自分の病気に関する情報をえようと考えても、一般の人にとって医療の情報をえることは難しかった。とくに、希少病・難病では難しく、患者やその家族にとって、病気に関する情報をえることは絶望的な状況であった。
そのような時代には、患者会へ参加し、患者会の集会や会報誌から得られる情報が貴重なものであった。患者会の存在を知るきっかけも、病気に関する情報を得たいということが大きな部分であった。
しかし、多くの情報がインターネット上で得られるようになり、医療の情報も行政や医療機関、製薬会社など患者会以外のさまざまな組織から得られる。医療情報を得るために患者会に参加するという必要が感じられなくなってきている。今後の患者会の活動は、情報提供以外の部分への移行する、すなわち、患者会の役割が1から、2や3へと比重が移されることになるだろう。
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