患者を支援する「エキスパート患者」の存在意義 「医療・ケア」に積極的に参加するべき理由

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その後、肝炎対策基本法(2009年12月)、アルコール健康障害対策基本法(2013年12月)、脳卒中・循環器病対策基本法(2018年12月)など次々に病気に対する基本法が成立し、そこで患者会の果たした役割は大きい。とくに、肝炎対策基本法は、患者会によるB型肝炎やC型肝炎の訴訟がもたらした結果でもある。

それ以前の医療は、病気を研究する研究者が有効性を示し、その効果と副作用、経済的効果などを学会が厚労省に提出し認めてもらうことにより保険適用となり、普及するという形をとってきた。しかし、これらの対策基本法では、患者が要求することにより、法律がつくられたことになる。つまり、患者の声が医療に活かされる方向へと動いた結果なのである。

真の患者を中心とする医療には、医療のエンドユーザーである患者の声を活かす仕組み作りが欠かせない。その意味で、これらの対策基本法の成立は社会が新しい医療の仕組みへと一歩を踏み出したことを意味する。このような議員立法だけではなく難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)においても、患者会の声が施策に反映されてきた。

今、病気などない健康な人にとって、このような法律は自分に関係ないものと考えてしまうかもしれない。しかし、病気はいつ襲ってくるかはわからないし、どんな人も病気になる可能性はあるのだ。そのようなときに向けて、先人が奮闘してくれていると考えることも必要だろう。むしろ、患者の声を活かす社会の仕組み作りが創られていることを感謝すべきではないだろうか。

患者会とどのように付き合うことができるのか

患者会の連絡先に電話をしてきて、無料で利用することが当たり前かのように考えている人がいるそうだ。もちろん、患者会での医療相談は無料でおこなわれているのだが、いろいろと教えてあげても感謝の一言もないことにがっかりするそうだ。あるいは、自分が必要な情報だけを聞き出して、それでもう患者会とは関係なしとする人もいる。

患者会を単に利用すべきもの、消費すべきものと考えているためではないだろうか。筆者は、患者会の存在は社会が共有すべき財産と考えている。情報を得るだけであれば、商業的サイトで得ることもいいだろう。それは料金をとったり、宣伝費が含まれているだろう。

しかし、病気を抱えて生きる、本当の福祉社会を創るなどの機能は、患者会だからこそできるものだ。そして、それは消費するものではなく、市民が協働することにより創っていくべきものであり、社会の基盤となる財産だ。医療そのものが、社会の共有財産として、市民が声を上げて育んでいくべきものだ。

そんな意識で市民の方が患者会と付き合い、そして活用してほしいと思う。多くの患者会は、自分自身が病気を持ちながら、同じ病気を持つ患者のためにほとんど無料奉仕で活動しているのが現状だ。元気なときには関心を持てないかもしれないが、真の意味での福祉社会をつくことは、ほかならぬ私たちのためでもあり、市民の役割であるのだ。

加藤 眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授

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かとう しんぞう / Shinzo Kato

1956年生まれ。1980年に慶應義塾大学医学部卒業。1985年に同大学大学院医学研究科博士課程単位取得退学(医学博士)。米国マウントサイナイ医学部研究員、 東京都立広尾病院の内科医長、内視鏡科科長、慶應義塾大学医学部・内科学専任講師(消化器内科)などを経て、 2005年より現職。著書に『患者の生き方』『患者の力』(ともに春秋社)などがある。毎月、公開講座「患者学」を開催している。
 

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