船橋:欧米のシンクタンクには、確立されたエコシステムがあるんですね。日本にはそれがありませんから、大変です。
鶴岡:研究はなんとか頑張れるんですが、それを支えるインフラが弱いのだと思います。出版がいちばんよい例です。研究者だけでシンクタンクはできません。
ASEAN国防相会合を実現した、シンクタンクの「裏芸」
船橋:シンクタンクの役割について、議論を深めたいと思います。私たちのシンクタンクでは、毎年「日米軍人ステーツマン・フォーラム」を開催しています。
アメリカ軍の統合参謀本部議長経験者、自衛隊の統合幕僚長経験者らが一堂に会し、日本政府高官や日米の安全保障を手がける国会議員や安全保障の専門家をも交えて、完全オフレコで議論を交わしています。
ここで心がけていることは、日米の脅威認識のギャップを埋めることです。例えば、中国をどう見ているか、中国の振る舞いのどこにどんなリスクや脅威があるかということについて、双方の認識を照らし合わせながら、そこにギャップがあればその原因を探り、埋める作業を続けてきました。2014年から始め、最初の3年くらいは相当深いギャップがありましたが、今はかなりなくなったと感じています。
このような仕事もシンクタンクには重要と考えていますが、例えば、IISS(国際戦略研究所)が毎年シンガポールで開催しているシャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)にも、そのような機能があるのでしょうか。
鶴岡:あそこまで規模が大きくなってしまうとお祭りですね。正式会合でのスピーチなんか、ある意味ダイアローグじゃなく、モノローグになってしまっています。
船橋:言いっ放しということですか。
鶴岡:けれど、表のスケジュールとは別に、会場の周辺で行われる無数の国防相会談などが重要です。日米韓の国防相会談など、シャングリラ・ダイアローグがなければおそらく無理ですね。各国国防相や軍の参謀長クラスを筆頭に、アメリカを含むアジア太平洋、さらには欧州の関係者が嫌でも毎年顔を合わせるわけです。シャングリラは、ASEAN国防相会議(ADMM)や日本も参加している拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)などの誕生の下地にもなったはずです。
船橋:シンクタンクにとっては、こうしたイベントを通じて軍の首脳や政府高官など政策当局者と信頼関係を築き、彼らが本当のところは、何を考えているのか、政策の真意はどこにあるのか、政治的リスクや費用対効果をどのように捉えているのかといったことを知ることはとても重要なことだと考えています。
日米軍人ステーツマン・フォーラムの会議の中身自体は表には出しません。成果物を出版する表芸とは違って、言葉は悪いかもしれませんが、裏芸のようなものかもしれません。しかし、こういうホンネの政策対話を通じて得られる知見や洞察は、政策研究を深め、政策提言をしていく上でとても役に立つと考えています。
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