日本のシンクタンクが欧米に到底勝てない理由 霞が関が政策立案を独占しているのが問題だ

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鶴岡:霞が関を本気にさせるような政策集団を作らないといけない。

船橋:そうです。大学の公共政策の研究者も研究の世界にどっぷり漬かっているだけではなく、政策起業家を目指してほしいですね。

鶴岡:ただ、その入り口が今はありません。所謂キャリア官僚(総合職)は、入省年次が退職まで付きまとうような、非常に硬直化した世界です。キャリア待遇の中途採用は例外的にしかありません。組織に新しい活力を入れる観点では、外部の有能な人材を、キャリア待遇で中途採用する仕組みが必要だと思います。

船橋:ご指摘のとおりで、現状ではこちらから霞が関へというドアは固く閉ざされていますが、その反対の道を行く人は増えてきています。

鶴岡:官僚がどんどん辞めていく。

船橋:そうです。これは構造的な問題で、深刻です。

鶴岡:防衛省でも相当辞めています。

霞が関は今こそ中途採用の門を開くべき

船橋:私どものシンクタンクにも、防衛省を辞職した優秀な女性が来てくれました。こちらはありがたいですが、こういう状況が続けば、政府は人材不足に陥っていきますから、早晩、門戸を広く開放して中途採用のキャリアを公募するといった時代に入ってくると思います。シンクタンクの「タンク」、つまり人材貯蔵の「場」が意味を持つ時代となるはずです。次のステップの踊り場、新たな挑戦への跳躍の場、政治に飛び込む前の準備期間の場、海外のシンクタンクでさらに大きく飛躍するための訓練の場、なんでもいいです。そうした場を提供したいし、開発したいですね。

官僚経験者も含め、社会のさまざまなところから変革志向の、やる気の、ある有為な人材を引っ張れるかどうか、シンクタンクはもっともっと工夫しなければと日々、考えているところです。だいたい、鶴岡さんのように、海外で武者修行して鍛えて来られた人が日本に帰ってきたときに、そのキャリアを活かして働ける場所は非常に限られていますよね。

鶴岡:そうですね。

船橋:大学だって、門は非常に狭いですね。こんなバカなことはありません。シンクタンクはまだまだ身軽で小回りが利きますから、そうした人材の受け皿となりたいですね。

鶴岡:パブリックに関心を持ち、公共政策を志す学生は一定数いますが、今の日本では、キャリアパスは限られています。政策に直接携わるには公務員になるしかありません。しかし、霞が関の働き方は、ブラック企業さながらだと話題になるほどで、二の足を踏む学生もいます。労働環境の改善は大きな課題です。辞める人が増えているのも、お給料以上にそれが背景ですよね。ともあれ、新卒時点で公務員にならなければ、もう一生その機会はなくなってしまうわけです。

一方で、外交・安全保障の分野で大学の研究者を見ると、現代の政策的な課題を学術的に研究している人が非常に少ないという現状があります。例えば私が専門とする欧州研究の分野では、大学院生を含む若い研究者の多くが外交史専門です。外交史自体は重要な研究分野ですが、このままでは、政策志向の研究者の層が今後厚くなっていくという見通しは立てられないのが実態です。

これまで日本における外交・安全保障分野の政策研究では、歴史家が大きな役割を果たしてきました。それらは重要な貢献だったものの、特殊日本的な現象だと思います。しかも、歴史家にとっての政策研究は、やはり余技にすぎないわけです。政策研究は、歴史家などが片手間に行うものではなく、学問的に本気で取り組むべきものであるという認識を関係者が共有し、政策研究のメソドロジーを確立して、大学院で教育できるようにしなければならないと思います。経済学や政治でも国内政策に関しては進んでいますが、外交・安全保障分野は明確に遅れています。この点は、私自身の課題でもあります。

船橋:それは、どちらも大きな問題だと思います。私たちも、例えば、大学の研究者に報酬を支払ってシンクタンクでの仕事と兼務するというような仕組みや、海外のシンクタンクに私どものスタッフを派遣するといった仕組みを作りたいと考えています。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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