日本のシンクタンクが欧米に到底勝てない理由 霞が関が政策立案を独占しているのが問題だ

✎ 1〜 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

船橋:RUSIは国防省の直轄ではないですよね。

鶴岡:組織的には完全に独立していますが、面白いのは、元政府高官をシニア・アソシエイト・フェローとして委嘱して、RUSIの肩書で世界に派遣したりしていることです。

RUSIの特権

有名なところですと、元MI6(イギリスの諜報機関)長官のジョン・スカーレットさんなどがいます。RUSIの肩書で台湾やベトナムなどを訪問し、イギリス政府が表立ってはやりにくい協議を、政府の代わりに行ったりしています。ある種の別働部隊で政府の役割を補完しているんです。

鶴岡 路人(つるおか みちと)/慶應義塾大学総合政策学部准教授。1975年東京生まれ。1998年慶應義塾大学法学部卒業後、同大学大学院法学研究科、米ジョージタウン大学大学院を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、防衛省防衛研究所主任研究官を歴任。その間、防衛省防衛政策局国際政策課部員(ASEAN担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、英王立防衛安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを務める。現在は東京財団政策研究所主任研究員を兼務。専門の欧州政治・国際安全保障を土台に、「リアル」な安全保障論、政策研究を追求。(撮影:今井康一)

そうした元政府高官や一部のRUSI幹部は、イギリス政府のセキュリティークリアランス(秘匿情報を扱う政府職員の適格性の確認)を持っています。つまり、必要に応じて政府の機密情報を扱うことができるわけです。日本ではちょっと考えられない制度です。

船橋:チャタム・ハウス(RIIAの俗称)には、かつて歴史家のアーノルド・トインビーのような巨人がいて、非常に大きな仕事をしましたが、今はどうですか。

鶴岡:いわゆる大物はいないかもしれませんが、それぞれの専門分野では活発に研究していると思います。

『インターナショナル・アフェアーズ』誌は、かつては季刊でしたが、最近のトレンドで隔月刊になっています。刊行回数は増えてもクオリティーは維持されていて、それが強いのだと思います。実際、査読付き論文の業績としてカウントされ、アカデミックにも評価されている雑誌です。そういう雑誌をフラッグシップとして持っているのは大きな資産です。『RUSIジャーナル』誌もIISSの『サバイバル』誌も同様です。

船橋:相当高いレベルの雑誌をフラッグシップとして維持できるというのが、強みですね。そのためにスタッフに専門のエディターを採用していますよね。

次ページ出版の専門家がいない日本のシンクタンク
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事