日本のシンクタンクが欧米に到底勝てない理由 霞が関が政策立案を独占しているのが問題だ

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鶴岡:防衛研究所もそうでしたが、それが日本のシンクタンクに欠けているところだと思います。

船橋洋一(ふなばし よういち)/1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など(撮影:今井康一)

例えば防研にはあれだけたくさんの出版物がありながら、スタッフに出版の専門家はいません。主に入所1、2年目の若い研究者が編集担当になって『東アジア戦略概観』や『中国安全保障レポート』などを毎年刊行しています。論文の書ける研究者であれば編集もできるはずだという考えなのだと思いますが、そうはいきません。執筆と編集には別の能力が求められます。防研に限らず、日本ではこの部分がおろそかにされることが多いです。

例えば、RUSIは総スタッフ50人ぐらいの小所帯ですが、私が訪問研究員をしていたとき、出版担当ディレクターを含め、フルタイムの出版・編集スタッフが5人いました。シンクタンクとして世の中の評価を維持していくには、出版物のクオリティーと信頼性が非常に重要だということがわかっているんです。私が『RUSIジャーナル』に寄稿した際も、プロフェッショナルなサポートを徹底的に受けました。

船橋:私のところでは、共同研究の成果物を出版するときはできるだけエディターに目を通してもらうようにしています。

鶴岡:すばらしい。

日本のシンクタンクは専門分野のプロを雇わない

船橋:とくに、共同研究の研究成果を新書版で出すときは、編集がとても大切になりますよね。文章がデコボコになりますし、材料やストーリーもダブる可能性があるし、論旨も調える必要も出てくるでしょうし。リライトする必要もあります。筆者の方々にも最初からその点は伝えるようしています。

鶴岡:アメリカやヨーロッパのシンクタンクには、資金集めの専門家とかイベントのコーディネーター、会員管理など、スタッフにさまざまなプロフェッショナルを抱えています。しかし日本では、経理や庶務の担当者がいるくらいで、あとの業務は研究者がまわしているところが少なくないですね。定員や予算の制約によることはわかりますが、根底には、何が不可欠かという優先順位づけの問題があるように思います。

資金集めにも出版にも広報にも、それぞれの分野で専門的知見が存在し、それは研究者が片手間にできる仕事ではありません。研究以外のプロの仕事にも敬意を払うべきです。それには、相応の報酬を支払うことも含まれます。日本ではそこがすぐ曖昧になってしまいます。

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