テレ朝「ドラえもん」「しんちゃん」改編の大疑問 視聴率王狙いのなりふりかまわずは短期視点

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しかし、テレビ朝日は視聴率が好調であるにもかかわらず、2019年3月期(2018年度)の連結決算で民放5局唯一の減収減益でした。これは中高年層の視聴者が多いことで自社商品を売りたいスポンサー受けが悪く、視聴率にふさわしい広告収入が得られなかったから。私自身がテレビ朝日の社員、某広告代理店の営業マン、某大手企業の宣伝担当から直接聞いたことであり、間違いないでしょう。

テレビ朝日は、朝の「モーニングショー」「じゅん散歩」から、昼の「ワイド!スクランブル」「徹子の部屋」、夜の「報道ステーション」「ポツンと一軒家」、ドラマの「相棒」「科捜研の女」(再放送を含む)まで、中高年層がターゲットの番組を量産してきました。

テレビ朝日が中高年層を狙い撃ちしてきたのは、録画視聴やネット視聴ではなく、視聴率につながりやすいリアルタイム視聴をしてくれるからにほかなりません。事実、テレビ朝日は日本テレビとトップ争いをするほどの視聴率を獲得していますが、中高年以下の年齢層を後回しにしたことで、クライアントと視聴者の両方から評価を得られていないのです。

その意味で、広告収入につながりやすく、長期の顧客になりやすいファミリー層や若年層を軽視するような今秋の改編は、「今年の結果を得るための短期的な策」と言われても仕方ないでしょう。

他局で情報番組を手掛けるプロデューサーに「今回の改編をどう思うか?」と尋ねたら、「テレビ朝日もここまで来たか」「明日なき戦いに突入したように見える」と言っていました。

日本テレビを筆頭に他局は、現在各メディアが報じている世帯あたりの視聴率ではなく、世代別で見た若年層の視聴率を重視する方針に変えはじめています。もし今秋の改編が成功してテレビ朝日が視聴率三冠を獲得したとしても、手放しで喜べるのは一部の上層部だけで、大半の関係者は不安に襲われるでしょう。

テレビマンの危機感と苦笑いの意味

一方、テレビ朝日の追い上げを受ける日本テレビは、ドラマ「あなたの番です」がたびたびツイッターの世界トレンドにランクインしているように、若年層をターゲットに含めた番組制作を進めて一定の成功を収めていますが、しばしば視聴率を得るための演出が行きすぎてしまうケースが散見されます。

例えば、先週末に放送された「24時間テレビ」では、「4人目の駅伝ランナーを放送中に発表」「番組終了までにゴールできず『行列のできる法律相談所』に視聴者を引っ張る」など視聴率狙いの内容に「あざとい」という声が飛び交っていました。程度の差はあれど、「視聴者ファーストではなく、視聴率ファースト」という点では、テレビ朝日だけではなく、他局もほとんど同じなのです。

テレビは、「好きなときに、好きな場所で、好きなものを、好きな分だけ見る」というユーザビリティでネット動画コンテンツに劣るだけに、それを補うためには視聴者ファーストでの番組作りが必須。もともと視聴者にとって視聴率は無関係のデータだけに、これに固執し続けていると、人々との温度差は広がってしまうでしょう。

先日、テレビ朝日のある社員と会ったとき、視聴率トップ争いについて話を聞くと、「それだけではダメだと思うけど、今年はやり切るしかない」と苦笑まじりに答えてくれました。さらに、日本テレビのある社員に同じことを聞いたら、同じような苦笑いで「トップにはなりたいけど、それだけではいけない」と言っていました。

トップ2社が「視聴者ファーストではなく、視聴率ファースト」に陥ってしまうところにテレビ業界の厳しい現状を感じてしまいますが、救いは現場の社員たちが危機感を抱いていること。民放各局が持つ映像制作の技術とノウハウは、依然として他の追随を許さないレベルだけに、視聴率をベースにしたビジネスモデルから脱却し、視聴者ファーストの姿勢を前面に出すことさえできれば、再び黄金期を迎えることも夢ではないでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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