名物アニメキャラ「声優交代」の知られざる苦悩 栗田貫一、山寺宏一、冨永みーなの心境

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この「似せて不自然に聞こえるなら(似ていても)ダメ」という部分は、栗田の「物まねは物まね。声優とは違う」という姿勢と呼応しているし、次第に「前任者に似ている/似ていない」以上に、演技重視になっていくところも共通する。

では、その演技を支えているのは何なのか。『わたしの声優道』所収の冨永みーなインタビューでは、冨永が『サザエさん』のカツオを演じるようになったときの心境を以下のように語っている。

冨永が大事にした「カツオくんの魂」

冨永がカツオを演じるようになったのは1998年。当時冨永は、伊佐坂浮江(磯野家の隣人一家の1人)を演じていたが、カツオ役の高橋和枝の調子が悪くなり、急遽カツオを演じることになったのが最初だったという。子役出身で、さまざまなアニメ作品でヒロインも演じてきた冨永だが、少年役は少なく、カツオ以外で、目立つ少年役といえば『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 』(1996)の明神弥彦ぐらいである。

「当時音響監督だった岡本知さんは大好きなディレクターさんだったので『この方が言うんだからできなくてもやるべきだ』と。やらないという選択肢はなかったです。その場でディレクションを受けながら演じたのですが、間近で和枝さんのお芝居を見ていたことが自分の中に強く残っていました。和枝さんはカツオくんの魂をすごく大切にすごく大事にしてらっしゃった先輩だったので、声は違ってもいいから、そこだけは大事にしようと」

「声は違ってもいいから魂を大切にする」という姿勢について、冨永は次のような言い回しでも語っている。

「とにかく全力でやらないと……という思いだけでした。だけど視聴者にとっては、あるときから和枝さんではなく私が演じているということは事実なわけで『麦茶だと思って飲んだらコーヒーだった』みたいな現象は起きていたと思います。

でも、それはもともと違うものなので、違うと言われても……。そこについての覚悟というか、割り切りはありました。大事なのはカツオを大切に考える魂で、声が違うのはごめんなさい、と。あとはディレクターさんがOKを出してくれたのなら、そこが私たちにとってのOKなので、それを信じようと」

声というのは、いくら物まねができようとも、最終的には個々人で皆異なっているものだ。だからこそ、役柄に向き合う“魂”を継承することが、“おなじみのキャラクター”を継承することにつながるのである。

逆にいえば、いかに前任者の“魂”を受け取ったか、という点こそが、後継する声優の腐心する点といえる。ここでいう“魂”とは、目に見えるものではないが、具体的には、そのキャラクターが喜んだり怒ったりするときに、どんなものにどんなふうに反応するか、という形で音声には反映される。表層的な似てる/似ていない以上に、そここそがファンが耳を澄ますべきポイントといえる。

藤津 亮太 アニメ評論家
ふじつ りょうた / Ryota Fujitsu

1968年生まれ。東京工芸大学芸術学部アニメーション学科非常勤講師。執筆のほか、朝日カルチャーセンターでの講義なども手がける。主な著書に『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語』(一迅社)、『ぼくらがアニメを見る理由 2010年代アニメ時評』(フィルムアート社)など。Twitter:fujitsuryota

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