下水道が抱える巨額の借金、和歌山市では住民サービス低下の元凶に《特集・自治体荒廃》
「入院時の食費補助はなくなりました」。和歌山市では2008年度から、67歳以上の高齢者に対する入院時食事療養費の助成金を廃止した。乳幼児、母子家庭等への助成は半減。和歌山生協病院の藤沢衛常務理事は「今後、患者への影響が心配」と語る。
和歌山市では入院時の食事補助制度が医療保険の適用外になった後も、独自事業として補助を継続していた。だが、ついに見直しの対象となった。ほかにも保育料の値上げや都市計画税の増税など、住民の負担増が相次いでいる。
こうした負担増の元凶が、実は普段目にすることのない下水道事業にあるのだ。
全国で断トツの赤字額 過大投資のツケ
和歌山市が本格的に下水道の供用を開始したのは、1982年。中核市の中では遅い部類に入る。07年度末時点、市内で公共下水道を使う人は約8・9万人。普及率も29・2%と全国平均の71・7%(08年3月時点)からは大きく後れを取っている。
それでも事業の現状は深刻だ。06年度における同事業の収支はマイナス約110億円と、全国で断トツ1位の赤字額(下表参照)。下水道や病院といった公営事業は、公営企業会計として市町村の一般会計から切り離されてはいる。だが、一般会計からの下水道に対する操出金(他会計・基金への操り出しに要する経費)は90年以降一貫して増え続け、市の財政を長らく硬直化させてきた。
そして下水道に注目が高まるきっかけとなったのが、08年度から適用された自治体財政健全化法だ。同法は自治体の財政状況を公営事業や第三セクターなどを含め、連結ベースで把握する。そこで別会計として処理されてきた「隠れ債務」が、あらためて浮き彫りにされたのだ。
和歌山市は連結ベースの赤字額の大きさを示す「連結実質赤字比率」が17・6%と、全国でワースト11位、中核市ではワースト1位となった(07年度決算ベース)。巨額赤字を抱える下水道が、大きな原因だった。和歌山市は、県庁所在地で国が定める早期健全化基準に唯一抵触し、国からイエローカードを突き付けられた格好となった。
この状況からどう脱するか--。そのための数々の対策が、住民サービスの低下を招いている。下水道料金についても08年1月、39・3%という異例の値上げが実施された。
なぜ下水道事業はここまで悪化してしまったのか。「和歌山市は紀ノ川の氾濫区域に当たるため、雨水に対する浸水防除に大きな投資が必要だった」(雑賀康先・下水道総務課長)という特殊事情はある。だが、最大の要因はその過大投資にある。
和歌山市郊外にある中央終末処理場。現在この処理場は、計画処理能力の約76%しか使われていない。当初は追加で処理場を建てる計画だったが、敷地の多くはまだ更地のまま放置されている。
公共下水道の利用者約8・9万人に対し、下水道供給に関する市の計画人口は32・8万人に上る。これほどまでに大きな乖離があるのは、全体計画を立てた当時の人口動態を基にしていたからだ。