映画「天気の子」が体現したアニメ映画の新価値 ファンタジーからリアリティーへの転換

✎ 1〜 ✎ 22 ✎ 23 ✎ 24 ✎ 最新
拡大
縮小
新海誠監督の最新作『天気の子』は全国東宝系で公開中 ©2019「天気の子」製作委員会

2002年の5月4日。ゴールディンウィークを利用して向かった広島は雨。楽しみにしていた広島市民球場でのカープ対タイガース戦が中止となり、仕方がなく近くの映画館でロングラン上映されていた『千と千尋の神隠し』を見た。

それまで、アニメ映画やジブリなどにまったく興味がなかった私だが、あろうことか、開始早々、ものの5分くらいで画面に引き込まれ、千尋にもぐんぐん感情移入し、ファンタジックな作品の世界にどっぷりと浸かった。気が付いたら、親子連れのど真ん中で、滂沱(ぼうだ)の涙を流していた。

この連載の一覧はこちら

新海誠監督の前作『君の名は。』(2016年)についても、『千と千尋~』ほどではないものの、瀧と三葉、そして彗星落下と「タイムリープ」が織りなす映像美に没入、十分に満足した。

言いたいことは、『千と千尋~』と『君の名は。』という、歴代邦画興行収入ランキングのトップ2となっているアニメ映画と、7月19日に公開された今作の『天気の子』には、印象のズレがかなりあったことだ。

もう少し具体的に言えば、『君の名は。』に対して『天気の子』には「地味」な印象を抱いたのである。

「君の名は。」の二番煎じではない「天気の子」

彗星落下のような強烈な天変地異ではなく、ただ雨がひたすら降り続くこと、ダイナミックに時制をまたがる「タイムリープ」もしないこと、さらに何といっても、主人公=帆高と陽菜の生活シーンが「地味」、もっと言えば「貧乏」なのである。

ロケーションで言えば、代々木の廃ビルに始まり、歌舞伎町の雑居ビルの入り口、ネットカフェ、ファストフード店、田端の木造アパート、ラブホテルなど。またそれらの場所で2人は、インスタントラーメン、ポテトチップス、カップ麺などのジャンクフードをほおばるのだ(実においしそうに!)。

ストーリーも『千と千尋~』や『君の名は。』と比べると、観客に与えるカタルシスが弱く、見終わった瞬間「あー、スッキリした!」と感じにくい作品だった。

次ページ識者は『天気の子』をどのように評価したのか
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT