そんな、『天気の子』が大ヒットしている。公開3週連続で観客動員ランキング首位を獲得、累計興行収入は59億円を突破している(8月5日発表、興行通信社調べ)。ということは、この作品は、単なる『君の名は。』の二番煎じではなく、アニメ映画としての新しい価値の創出に成功したのではないだろうか。
『天気の子』が生み出した新しい価値とは何か。それを考えるうえで、この映画が持つメッセージを識者がどう見ているかを探ってみたい。
立教大学准教授の貞包英之氏は、この映画は「東京の閉塞を描」いているとし、「『天気の子』は緻密な描写によって『現実』のようにつくられた都市を破壊することで、都市をもう一度ヒューマンスケールで取り戻し、そこで自由に振る舞うことの爽快感をリアルに伝えてくれる」としている(現代ビジネス「東京の閉塞を描く『天気の子』は『わたしたち』の物語になるだろうか」より)。
また編集者・評論家の中川右介氏は、映画の中の長雨を「『放射能』のメタファー」だとし、「放射能は降ってくる。それは防ぎようがない。いやだけど、しょうがない。いちいち考えていたら、そのストレスで体調を崩し、もしかしたらガンになってしまうかもしれない――それが、3.11以後の人々の処世術であることを、長雨のなかで平然と暮らしている人々は暗喩しているのかもしれない」と語っている(現代ビジネス「『天気の子』は娯楽映画のフリしてとんでもなくラジカルだ!」より)。
しかし、この映画が持つメッセージについて、輪をかけて具体的に語っている人がいる。それは新海誠監督自身である。いくつかのインタビュー(や映画のパンフレット)で、新海氏は、かなり明確に、自身の意図を述べているのだ。
新海監督が「天気の子」に込めたメッセージとは
注目する発言は2つ。まずはタイトルからして何やら物騒な、「『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせたい」(Yahoo!ニュース 7月19日)におけるこの発言。
――「まずひとつ現状として、世の中がだんだん不自由になってきている感覚がありますよね。それは僕個人が感じている部分でもあるし、周囲でもメディアでも、日本の将来についてあまり楽観できないという話は多い。何かが、今あまりよくない方向に向かっているという感覚は、結構な数の人が共通して感じていることだと思います。でも、子どもにはその気持ちを共有してほしくないんです」
次に、日本経済新聞夕刊(7月23日付)に掲載されたこの言葉。
――「彼らを主人公にしたのは、大人の心配を飛び越えていくような人たちを描きたいと思ったから。気候変動や政治状況、年金のゆくえ。今後よくなっていくこともあるだろうけれど、悪くなっていくこともたぶん多い。僕たちはそういう場所、時代に暮らしている。どう対応したらいいのか分からない心配を、勝手に飛び越えていく人たちがいるんじゃないか、いやいてほしい。そういう少年少女を描きたかった」
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