さて、今回の利下げは「予防的利下げ」という位置づけである。とはいうものの、過去に利下げが1回だけで終わったためしはない。しかもアメリカの利下げを見込んで、既に欧州、中国、英国、ブラジル、インドネシア、豪州、トルコ、ロシア、韓国などの中央銀行は、先行して金融緩和に踏み切っている。
そんな中で、日本銀行だけは打つ手がない。なにしろとっくの昔に金利はゼロに張り付いている。そしてマイナス金利を拡大すると、金融機関の経営が不安定化するという「副作用」が心配になる。かといって他国が一斉に金融緩和している中で、日本だけが何もしないでいると、金利差縮小で円高が進行する恐れが生じる。
日銀はどうするのかなと思っていたら、FOMC直前に行われた金融政策決定会合では新たな決定は盛り込まれず、公表文に新たに「物価上昇目標への勢いが損なわれる恐れが高まる場合は、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」と盛り込んだだけであった。
まあ、確かに「ない袖は振れない」。まったく方策がないわけではないのだが、日銀は追加策をなるべく先に取っておきたいのであろう。ちなみに「躊躇なく」は黒田東彦総裁の口癖のようなもので、この一言で円高リスクをかわせると見切っているのだとしたら、まるで武芸の達人のようである。もっとも本校執筆時点(8月2日昼)では、為替は106円台に足を踏み入れているようなのだが。
今回のアメリカの利下げは不思議なことばかり
あらためて今回の利下げについて考えてみると、不思議なことがたくさんある。
まずアメリカの雇用は堅調で、失業率は3.7%(6月)という低さである。4-6月期GDP速報値も、年率換算で前期比2.1%増とけっして悪い数字ではなかった。設備投資と輸出は奮わなかったが、個人消費は相変わらず活況を呈している。そして株価はもちろん史上最高値圏だ。普通に考えたら、利下げよりも利上げの方が相応しいのではないかとさえ思えてくる。
それだけではない。以前のパウエル議長は、アメリカ経済が抱えるリスクとしてしばしば「債務上限問題」を指摘していた。政府の債務は既に今年3月に法律上の上限に到達していて、新たな借り入れができなくなっていた。このままでは今年9月には政府資金が枯渇し、最悪は米国債のデフォルトリスクまであるところだった。
ところが7月22日、トランプ大統領とナンシー・ペロシ下院議長が向こう2年間の予算編成で大胆に合意した。これで米国債のデフォルト懸念は消えたし、支出の強制削減ルールも停止した。結果として「大きな政府」となって財政赤字は拡大するが、これは民主党もトランプ大統領も異論のないところだ。共和党の財政タカ派は反対に回ったけれどもね。
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