濃厚かスッキリ?/動く写真がデジカメを革新/オンナ心に火をつけるスポーツウエア《それゆけ!カナモリさん》

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濃厚かスッキリ?/動く写真がデジカメを革新/オンナ心に火をつけるスポーツウエア《それゆけ!カナモリさん》

 

■1月16日 カシオ「動く写真」がデジカメを革新する?

 「2009年はデジカメ革新の年にしたい」、というカシオ計算機の樫尾和雄社長のコメントが、日本経済新聞2009年1月13日付け朝刊の「人こと」コラムに掲載された。

コラムは、「世界景気は悪化しているが、全く新しい発想でデジタルカメラの需要を刺激する」という樫尾社長の力強いコメントで始まっている。「革新」を体現する商品として動画と静止画の合成や超スローモーション動画撮影ができるコンパクト製品が発売されるとあった。

同社ホームページでニュースリリースされている、1月23日発売の『EXILIM ZOOM EX-Z400』と『EXILIM CARD EX-S12』のことだろう。

リリースには、新開発EXILIMエンジン4.0の高速画像処理により、撮影した被写体を切り抜き、背景となる別の静止画に合成できる「ダイナミックフォト」を搭載。しかも、動く被写体を切り抜いて合成できるので、写真の中で被写体だけが動きます、とある。その具体的な用途を集めたウェブサイトには、大リーグの打席でバットを振る少年の姿や、富士山から滑り降りる子供の姿など、楽しげなデモ画面が揃っている。

樫尾社長のコメントに戻ろう。キヤノンやソニーなどより規模は小さいが、「デジタル化の発想では負けない」、「ゼロから一を生み出すのがカシオの伝統」、とある。

恐らく、カシオ社内では膨大な蓄積の中から「USP(unique selling proposition):競合が真似できない、自社独自のセールスポイント」となり得る技術を棚卸しし、精査し、今回の動画と静止画の合成を実現する「新開発エンジン」を実現したのだろう。

「デジタル化の発想」や「ゼロから一を生み出す」という言葉は、「自社の技術をユニークな商品作りに活かす」、と解釈できる。企業が研究開発を重ねて蓄積した技術を「シーズ(Seeds:“種”の意)」という。その技術の中からユニークなものを伸ばして開発をしていくのが「シーズ発想」の製品開発である。

顧客の叶えられていない要望や、不満を元に商品開発を行うのが「ニーズ発想」の開発だ。この場合、顕在化したニーズにどう対応すればいいのか、比較的考えやすいし、潜在的なニーズであれば、アンケートやインタビューで引き出すこともできる。比較的外さない開発方法だと言える。

しかし、顕在ニーズはもとより、潜在的なニーズさえも成熟化したデジタルカメラの市場。もはやニーズは刈り取り尽くされている。「顧客が考えたこともないような使い方や機能」は、ニーズからは浮かび上がってこないのだ。「シーズ発想」のリスクは、開発費を投じても、果たして顧客に受け入れられるのかがわからないという点にある。しかし、カシオは「ゼロから一を生み出す」の言葉どおり、道なき道を行き、未踏の地を目指す覚悟を決めたのだろう。

もう一つは、「動画と静止画の合成や超スローモーション動画」というように、「動画技術」の部分に踏み込めば踏み込むほど、「デジタルカメラ」という製品カテゴリから、「デジタルビデオカメラ」との競合を覚悟することにもなる。動画を撮ることにおいては専門領域であるプレイヤーにさえ、独自の機能性で戦いを挑もうというのだ。

新たな機能を提案し、領域を超えた戦いを展開しようというカシオの戦略。そこでは、「ターゲティング」が重要になってくる。USPがUSPとして成立するには、そのユニークさを認めてくれる顧客(顧客層)が存在するということが欠かせない。そうでなければ、「売る側の思いつき」として忘却の彼方に追いやられることになる。

シーズ発想で開発された商品は、当初はそれをどのように評価し、どのように使いこなしてくれる顧客がいるのかということが見えにくい。もちろん、上市(発売)前には何度も顧客インタビューや調査が行われたであろうが、それでもまだ、完全ではないだろう。事前の調査結果とは反対に顧客がつかないこともあれば、当初設定したターゲットや、市場に向けて提案した使い方以外で大ヒットした商品もある。カシオの戦略においては、市場からの「顧客の声」を吸い上げる取り組みが求められる。

「その技術・商品を受け入れた顧客は誰なのか?」(ターゲティング)
「ターゲットに商品をどのような存在として認知させればいいのか?」(ポジショニング)
「どのように製品改良を重ねればいいのか?」(製品戦略)
「どのような訴求方法なら魅力が伝わるのか?」(コミュニケーション戦略)

「未踏の地を目指し強敵と戦う覚悟」。その経営者の卓然たる決断を成功に導くのは、技術力だけではない。その道程で、「顧客」視点に立ち戻り、マーケティングプロセスを回転させることが求められるのだ。

 

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