爽健美茶VS.潤る茶~熾烈なマーケティング戦争 /タブーに挑戦したZ会CM「わたしたちをこえていけ」 /「マックスコーヒー」33年目の全国侵攻・その勝機 《それゆけ!カナモリさん》
■2月16日 爽健美茶VS.潤る茶~熾烈なマーケティング戦争
コンビニの棚は各社の戦いの最前線である。生き残りをかけた、マーケティング担当者たちのギリギリの戦いが続いているのだ。今回は茶系飲料の棚から、その模様をのぞいてみよう。
コンビニの飲料ケースの棚を見ると、まずキリンビバレッジの「潤る茶(うるるちゃ)」のパッケージ変更に気付く。CMで仲間由紀恵が「うるおう理由は、素材にあったんだ」と言う、ビタミンCやコラーゲンなど13種類の素材が、「潤う」をイメージさせるしずくの形で表現されている。
茶系飲料の中で、多数の素材を用いた「ブレンド茶飲料」の元祖は十六茶だ。1985年に発売され、93年からアサヒ飲料が発売元となり、缶・ペット容器入り飲料として発売。大ヒットとなった。
その93年に対抗馬として上市されたのが日本コカ・コーラの「爽健美茶」である。飲料業界第一位の同社は、業界リーダーの戦略の王道である「同質化」が得意だ。下位のポジションにある企業のヒット商品の特性に、優れた開発力ですぐに追随。上市後、先行商品の存在をかき消すように、強大な販売力で市場を席巻する。スポーツ飲料カテゴリーにおける、大塚製薬の「ポカリスエット」に同質化戦略をしかけた「アクエリアス」も同社の製品である。
93年に「茶流彩彩」ブランドでスタートした爽健美茶は99年に単独ブランドとして独立。大ヒットとなり、ブレンド茶飲料におけるトップシェアを維持し続けている。
事業ポートフォリオを考える際よく用いられる「PPMモデル」で考えてみよう。このモデルは、「成長性」と「マーケットシェア」という2軸でマトリクスをつくり、事業を四つの象限に類別する。
定番化した爽健美茶は、日本コカ・コーラの製品ポートフォリオでは、シェアは高いが成長性は低い「金のなる木」となった。ポートフォリオマネジメントの定石は、シェアは低いが成長性は高い「問題児」のポジションに商品を上市し、「金のなる木」で稼いだ収益で、シェアも成長性も高い「スター」に育成することだ。
その原則通り、同社は「からだ巡茶」を同じブレンド茶カテゴリーに投入した。商品名は「体の中からキレイを目指す」を意味するといい、女性を明確にターゲットにした。薬日本堂と協力して製品作りにも力を入れ、CMを大量投入するプロモーションにも注力した。
「スター」のポジションに育成する狙いだったのだろう。
現状のシェアは不明ながら、コンビニの棚を2フェイスしっかりおさえていたことから、しっかり売れ、「スター」に育ったと推測できる。
■王者と挑戦者の壮絶なバトル
さて。独占的シェアを持つ爽健美茶と、スターに育ったからだ巡茶の、「日本コカ・コーラ無敵タッグ」に挑む「潤る茶」であるが、勝算はあるのだろうか。
チャネル営業に力を入れたと見え、棚を3フェイス確保していた。仲間由紀恵のCMも大量投入していることから、認知度は向上しているだろう。
だが日本コカ・コーラは、どんな挑戦者も許さない構えのようだ。
潤る茶がコンビニ標準価格の147円なのに対し、爽健美茶には125円のキャンペーン価格が設定されていた。競合商品のリニューアルの出鼻をくじく戦略だと考えられる。
この価格戦略は絶妙だ。いくらCMを大量に投入し、認知度を向上させても、最後に手に取らせて買わせなければ意味がない。
消費者の購買決定プロセスを説明するAIDMAモデルで見てみよう。「仲間由紀恵」×「潤いの表現」で、Attention(認知)・Interest(関心)ぐらいまでは行くだろう。「ミネラル・ビタミン・コラーゲン」が摂れるといわれれば、飲んでみようかなと思って記憶に残るかもしれない。Desire(欲求)・Memory(記憶)だ。
しかし、読者の皆さんもご経験の通り、飲料などの場合、最後の最後に、店頭で「やっぱりこっちにしよう!」とAction(購買行動)がすり替わってしまうことも少なくない。
心変わりを起こさせるために、一番簡単な方法が値引きだ。リニューアルしたての潤る茶は値引きでスタートしたくない。痛いところを爽健美茶は突いてきたわけだ。
手立てがないわけではない。例えばプレミアム賞品をボトルネックに付けたり、その場で賞品や賞金の当選が分かるインスタントウィン型のシールを本体に貼るなどの方法だ。リニューアル記念とすれば期間限定だし、意味も明確になる。
個人的には「うるる」という名前で、パッケージの「しずくの形」を見ると、ダイキン工業のエアコン「うるるとさらら」と、そのキャラクターの「ぴちょんくん」を連想してしまう。ダイキンとコラボレーションして、「潤る茶ぴちょんくん」のプレミアムを作り、ボトルネックに付ければよかったのではと思ってしまう。13種類の素材にちなんだ、13種類のぴちょんくん。筆者なら集めてしまいそうだ。
製品にとっては消費者の審判を受ける場所である店頭。特にコンビニはPOS管理され、売れ行き次第では棚のフェイスは減らされ、最終的には置いてもらえなくなるという厳しい世界だ。
強大なリーダーに挑む「潤る茶」にエールを送りつつ、その戦い方を今後もウォッチしてみたい。
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