爽健美茶VS.潤る茶~熾烈なマーケティング戦争 /タブーに挑戦したZ会CM「わたしたちをこえていけ」 /「マックスコーヒー」33年目の全国侵攻・その勝機 《それゆけ!カナモリさん》
■2月23日 「マックスコーヒー」33年目の全国侵攻・その勝機
「マジ ハンパなく バリ 甘い」。とにかく目立つクリエイティブとベタベタなコピーが目を惹くポスターがそこかしこに掲げられた。2月、千葉県民・茨城県民のソウルドリンク、「マックスコーヒー」が全国に販売エリアを拡大した。
千葉・茨城以外にも早期に埼玉・栃木に出荷され、その後徐々に一部関東圏に販売エリアを拡大していたものの、マックスコーヒーは全国的にはほぼ無名だろう。その特徴を端的に伝えるなら、まさに「マジ ハンパなく バリ 甘い」となる。
原料の乳成分に100%練乳を用い、さらに砂糖を加えたその味はとにかく甘い。知らずに飲んだら、「これがコーヒーか!」と、心底驚くことになるだろう。その意味では「マジ ハンパなく バリ」は特徴を適確に伝える秀逸なコピーであり、適確な警告でもある。
全国拡大に際して、ポスターだけでなく初のテレビCMも放映された。また、公式ホームページもノリノリで作られている。
中でも、「プロジェクトMAX」と題されたコンテンツ(動画)が秀逸だ。千葉・茨城エリアを中心に30年以上もの間、愛され続けている「 マックスコーヒー」。そのやみつきになるうまい甘さを守り続けた 男たちの甘くないドラマ。
某局のドキュメンタリーシリーズを彷彿とさせ、なんだか、中島みゆきの歌声が聞こえてきそうだ。しかし、パロディーではない。確かにマックスコーヒーを誕生させ、育て、守ってきた「男たちの」姿がしっかりと描かれたドラマなのである。
マックスコーヒー誕生と今日までの歴史は、上記「プロジェクトMAX」と、ウィキペディアの記述を併読するとよくわかる。
UCCなどのメーカーが缶コーヒーの販売を開始した1970年代、コカ・コーラブランドには缶コーヒーが存在していなかったが、競合は自販機に次々に設置。コカ・コーラ商品を販売する「利根コカ・コーラボトリング」が自社ブランドとして、千葉、茨城両県で販売を始めた。上記の動画の中で、当時の商品企画担当者が、自販機オーナーなどから、「缶コーヒーを入れなければ、自販機を撤去せよ」と言われたと、開発に踏み切った経緯を振り返っている。
地域のボトラーが市場の要請に対して、「潤沢な資金のない中での開発(動画より)」をしたという、まさに地域ブランドであるわけだ。県民の支持も集まろうというものだ。
ウィキペディアによれば、91年に日本コカ・コーラの「ジョージア」ブランドと統合し、「ジョージア マックスコーヒー」と改名したが、味はそのまま。順調に売上を伸ばし、2006年に都内繁華街や駅及びその周辺に販売を拡大。07年には北海道、08年には愛知、香川・愛媛、大分、宮崎県と、販売が拡大されているようだ。
このようにジワジワとした拡大路線であったのが、09年に一気に全国拡大となったわけだが、ナゼ、この時期なのか。
■時代を読みきった全国拡大
上記から変化点と考えられる06~09年の環境を分析してみよう。まずはマクロ環境分析のフレームワーク、「PEST」だ。
・Economical(経済的影響要因)=戦後最長の「いざなぎ越え」ともいわれた好景気は徐々にかげりを見せ始め、格差社会が拡大。そしてついに、米国発の金融不安に端を発した経済危機が昨秋勃発した。
・Social(社会的影響要因)=05年テレビ東京が「元祖!大食い王決定戦」を放映。ギャル曽根を筆頭とした大食いタレントがもてはやされ、各局が追随し、大食い番組を制作。06年日本マクドナルドが「メガマック」を発売。牛丼、コンビニ弁当などに商品大型化(メガフード)の影響を与えた。08年秋、さらに大型の「クォーターパウンダー」登場。
・Technological(技術的影響要因)=05~06年にかけて日本のブログ人口は倍増。SNS人口も急増した。自身の体験を簡便に発信することが可能となった。
以上のファクトからどんな「意味合い」が抽出できるのか。
「大食いブーム」を切り口に考えよう。当初、エンターテイメント的に扱われていた大食いとメガフードであるが、景気の悪化に伴う消費者の可処分所得の減少によって、「コストパフォーマンス(コスト・パー・カロリー)のいいもの」と受け取る層も増えてきた。
また、「メタボ防止」と、カロリー摂取に関してうるさくいわれることを嫌がり、その動きに反発する層も一部で増加した。さらに、各種メガフードを食べ、体験をブログやSNSで発信する人が増え、メガフードコミュニティーがさらに拡大した。
つまりこの時期、高カロリー食品に対して、「メタボだなんだとうるさくいわれたくない!」という反発心と、コストパフォーマンス良く「その一品で満足できる」というものが求められ、ネットなどを通じてファン層が拡大していったのだ。
さて、マックスコーヒーはこうしたマクロ環境の中で、どうとらえられるのだろうか。
缶コーヒーの中では恐らく最大の糖質を誇り、さらに練乳の仕様により糖質量以上に甘く感じるその味は、間違いなく「1本で満足」を得られる。缶コーヒーらしい甘みを感じる「ジョージアオリジナル」の1.5倍近いカロリー(100mlあたり50kcal)はカロリーなど気にしたら飲むことはできない。
この飲料における「メガ感」。公式サイトで多くのファンが動画でその「甘さ」の魅力を伝え、「疲れた時にピッタリ」と語る「充実感」。そこにカロリーなどという言葉は微塵も登場しない。コアなファンがすでに多くのブログを立ち上げ、その魅力を熱心に喧伝している。こうした一連の動きは実に今の時代にぴったりだといえるのではないだろうか。
「マジ ハンパなく バリ 甘い リアルにコーヒー ちょー元気 続きMAX!」。これが今回の全国侵攻に際して作られたコピーだ。健康志向ではなく、極端な甘みによって1本で十分な満足を得られる独特のポジショニングを持ったマックスコーヒー。地域飲料としての33年の歴史を経て、世相の変化に対応し、初の全国展開をスタートさせたのだ。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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