「男性の育休義務化」が夫婦の危機を招くワケ 産後うつの原因が「夫」になってしまうかも

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ケース2)勉強に時間を使いたがる夫に激怒

夫が育休を取得できることになり、夫婦で話し合いをしたところ、長い休みなので勉強する時間もあるし、何か資格を取ろうと思うと夫が話し出した。何のために休むのかを完全に履き違えていると妻が激怒。夫は効率よくやれば何の不満があるのかと主張、話し合いは平行線となり険悪な状態が続いている。

意識が高い系の夫なら、家にいられる時間を生かして次のステップアップにつなげたいと思うのも自然なことと思いつつ、そもそもの休む理由を認識できていない気がします。

どんなことでもやったことがないことを想像するというのは無理なことですが、家事、育児=家にずっといられることで、時間は十分にあると考えるケースは少なくないと感じます。もちろん慣れてくれば、すべてを家事、育児の時間に使わなくても自分の時間が持てるようになるとは思いますが、そもそも、余暇ではないという認識が必要です。

きちんと伝え合っていないとストレスの原因に

ケース3)なんでも「一緒」にやりたがる夫にうんざり

子育ては夫婦でするものという昨今の流れに完全に感化され、分担ではなく、すべてを一緒に行おうとする。沐浴や散歩、授乳に関しても、妻側は体調の波も大きいし、そのペースについていけない。よかれと思ってやっていることはわかっているが、ひとりの時間が欲しい。短時間でも、子どもの世話から離れ、心身を休めたい。

これは、子どもがある程度大きくなってからも、よくされる相談です。

休日に一緒に出かけるのではなく、子どもの面倒を見ていてもらえている安心感の中で美容院に行ったり、友達とお茶を飲みながらおしゃべりしたりしたいという切実な訴えがあります。

もちろん、協力しながらの「子育て」という貴重な体験の共有は、とても大切なことです。しかし、気分転換はもとより、「ひとりになる時間」は誰にとっても必要です。ひとり時間は、究極のリラクゼーション効果を生みます。夫が家にずっといることで、この「ひとり時間」の確保が難しくなります。

同じようなケースで、単身赴任の夫が家に戻って、妻が「うつ状態」になってしまうケースは多々あります。今まで離れていた分、できるだけ一緒にいようとする夫に多く見られる現象です。夫は真剣にどうしたらよいのか悩みますが、その原因が自分であるとなると由々しき問題です。

「夫源病(ふげんびょう)」という言葉もあります。医学的な病名ではありませんが、夫の言動のよって妻が大きなストレスを感じ、それにより妻が心身の不調に陥ることを指しています。

このような問題の根底にあるのは、お互いの思いや考えをきちんと伝え合っていないことにつきます。

夫婦だからわかり合えて当然と思うのは間違いです。「言わなくてもこれくらいわかってほしい」と思うのは傲慢です。自分の意思を的確に相手に伝える必要があります。何となくやんわり伝える、遠回しににおわせるということを避け、具体的に細やかに伝えるようにしていただけたらと思います。

気持ちは少しずつ変化していくものですし、ため込むと感情が先走って、本当に伝えたいことが伝えにくくなります。

結局のところ夫婦間の問題ということにはなってしまいますが、夫婦の形も関係性もさまざまな中で、「何が何でも休め!」とされることに、違和感を覚えます。会社側も、そのようなリスクを抱えている背景を理解しつつ、義務だからと強引に押し付けてしまうことは避け、タイミングや期間など、本人の希望を踏まえつつ、検討していくことができればと思います。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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