藤村卓也さん(47歳)は岩手県にある清酒製造業、喜久盛酒造の社長だ。
喜久盛酒造は1894年から酒蔵を続ける歴史のある酒造店であり「喜久盛」「鬼剣舞」といったこだわりの日本酒が売りだったが、現在1番の売れ線は「タクシードライバー」という銘柄だ。
「え? 本当に日本酒の名前なの?」
と思った人も多いだろう。名前だけではなく、赤い文字で描かれたパッケージデザインも強烈だ。
その過激な見た目とは裏腹に、「タクシードライバー」は岩手の米だけを使ったまじめな純米酒だ。伝統の製造方法を保ちつつ、斬新な商品を造る藤村さんだが、これまでどのような道のりを歩んで来たのだろうか?
造り酒屋の5代目として生まれる
藤村さんは母親の実家である東京の病院で産まれ、その後は岩手で育った。
「造り酒屋の子どもとして生まれました。創業は1894年で、僕は5代目になります。小さい頃は景気がよかったですね。人もたくさん雇っていました。欲しいと思った物はなんでも買ってもらえました」
日本酒の需要は1973(昭和48)年をピークに落ち込んでいくが、その頃はまだ余力が残っていた。
「1977(昭和52)年には、岩手の放送局でローカルテレビコマーシャルを流していました。オリジナルソングを歌っていたのがテレサ・テンです。CMには、こみこみで200万円くらいかかったそうです。本当に余裕があったんですね」
小学校は1学年1クラス20人と、第2次ベビーブーム世代としては少なかった。
「小学校3年生のときにはすでに、家業を継ぐという意識が芽生えていました。ただ、いずれ家業は継ぐけど、それまでにいったん親のコネが通じないところで就職して、30歳くらいまでは好きなことをやろうと思っていました。
その頃は実は運動嫌いな肥満児でしたね。運動をしたくないという理由でブラスバンド部に入っていました」
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