筒井:ただ、工夫の仕方次第では「他人を家に入れることへの警戒感」も解けていくと思うんです。信頼できればそれでいいわけですよね。盗みを働かないとか、そこをクリアできる仕組みやアーキテクチャーができれば今後広がっていく余地はあると思います。
領域は異なりますが、配車サービスのウーバーと似ていると思っています。ウーバーも利用するのは少し不安だという人もいるかもしれないけど、トータルとしては回り始めている。そういう信用の仕組みが作られれば。フロンティアなので、誰かイノベーションを起こせる企業がそこに参入し、国が補助金を出すというのもありえるのではないでしょうか。
中野:実はまさにそれが新刊に書いた内容の1つなのですが、家事代行やベビーシッターでCtoCのプラットフォームができはじめています。私が初期から取材してきたタスカジというサービスでは、まず企業側が家政婦さんをテストセンターで1件目として評価し、その後は利用者が評価し、Amazonのレビューのように閲覧できる仕組みになっています。しかも評価が高いと、時給が上がっていくようになっていて、利用者側も評価が高い人に来てもらいたかったら高く支払うという枠組み。これをITを活用して作っているんです。
筒井:そうすると広まっていきますよね。評価システムが時給にも反映されるんですね。
家事サービスには政府の介入が不可欠
中野:家事が無償労働で、なかなか評価されないという問題の解決策にもなる可能性があると思います。枠組みの作り方によっては、働き手がいい評価を得るためにサービス競争をしはじめてしまう可能性があり、設計に目配りは必要だと思うのですが。さきほどおっしゃった政府が補助をつけるというのはどのようなイメージでしょうか。
筒井:市場に任せっきりだと、低賃金競争が始まってしまう可能性がやはりあると思うんですね。それに、ユーザ側にとって事前に家事サービスのクオリティが完璧にわかるということはないので、情報の非対称性が強い。質がわからないものに高い金は出しにくいので、平均的な価格帯が下がる。結果的に逆淘汰が生じて悪貨は良貨を駆逐してしまう。
それを防ぐために評価システムがあるのだけど、それがうまくいかないと質の悪いものが「安ければいい」ということで生き延びてしまうことがある。なので、それを防ぐために政府が企業に余裕を持たせてあげるという可能性はあるかもしれないと思いました。
企業に対して、悪いことをしたら補助金を取り上げるぞというようなふうにも使えますし。補助金がいちばんいい方法かどうかはわかりません。それがうまくいくとは限らない。けれど、市場原理ばかりだけだと働き手のためにならない可能性がある。
中野:プラットフォームが福利厚生を提供するなどで、プラットフォーム側の競争で解決されていく可能性もあるかと思います。
筒井:家事サービスを提供する人がフリーランスに近づいていったときに、プラットフォーム側がどこまで助けてくれるかですよね。ヨーロッパだと個別契約が多く、働き手に不利なので、最近ドメスティックワーカーの組合ができている。労働者としての権利をきちんと交渉できるように、ということですね。シンガポールでも組合はあるのでしょうか?
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