「上司のいじめ」で肺に穴開いた27歳女性の胸中 カーディガン着ただけでキレる鬼上司の恐怖

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「今思えば、社会に出たばかりで右も左もわからない私を、みんながストレスのはけ口にしていたんだと思います」

取材後、私は中原さんがつぶやいたこの言葉を何度も何度も反すうしました。会社などの組織においては重かれ軽かれ、こうした「サンドバッグ」的な役目を負わされる人がいます。それは新入社員や若手社員であることもあれば、仕事の覚えが人より遅い人である場合や、何となく言い返してこなさそうな人が選ばれている場合もあります。

私自身、2社で正社員を経験した頃を振り返ると、新入社員の頃に理不尽な嫌がらせに遭ったこともありますし、八つ当たりをされたり、社内で雑用以外の仕事をさせてもらえなくなった人たちを見たこともあります。

サンドバッグにされてしまった人たちの多くは、最終的には会社にいるのがつらくなり、辞めてしまうことがほとんどです。今回取材を受けてくれた中原さんも、そのうちの1人です。

給湯室に呼び出されているときにストレスで肺に穴が開き、完治するまでの数カ月間、ずっと息苦しいままだったといいます。そんな状況に耐えかねて「退職したい」と申し出た彼女は「3年以内に辞めるなら、今まで払った交通費60万円を全額返せ」と会社側から言われました。もちろん、これは支払う必要がないお金です。

しかし疲れ果てていた当時の中原さんにとっては、争う体力すら残っておらず、3年間勤めた後、最後の出勤日に社員全員の前で「そもそも人生設計からして間違ってるよね。警察官になりたいんだったら、ここで3年働く意味もなかったし、大学に通う必要もなかったじゃん。『夢がある』とか、何言ってんの?」と総務部長にののしられながら、会社を追われるように退職をしました。

「同調圧力」という呪い

中原さんのように「あの人は叩いてもいい」と認識された人たちは、誰からも助けてもらえず、心身が壊れるまで虐げられなければいけないのでしょうか。

「新卒で入った会社を辞めるのは不安だったし、どこへ行っても同じようなものかと思っていたんです。でも、あの会社を辞めたことで『辞める』という選択肢があることを学びましたし、自分がいた環境がどれだけひどかったのかを、客観的に捉えられるようになりました。

私の話がもし、今同じような目に遭って苦しんでいる人にとって少しでも希望になれば、うれしいです」

自分のストレスを、社内の「叩いても許される誰か」にぶつけていないか。自分が誰かの「サンドバッグ」にされていないか。同調圧力によって理不尽に傷付けられてしまった彼女の言葉を、私たちは聞き流してはならないはずです。

吉川 ばんび フリージャーナリスト

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よしかわ ばんび / Banbi Yoshikawa

1991年生まれ。コラム・取材記事をメインに執筆。とくに関心のある分野は貧困や機能不全家族、ブラック企業、社会問題など。

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