歌詞全体から彷彿される世界観で、というより、歌詞の中の個々のフレーズで爪痕を残そうという意志にあふれている。だから詩人というよりは、コピーライターに近い才能のきらめきを強く感じる。その結果として「あいみょんパンチライン」が、ひいてはあいみょん自身が、現在の音楽シーンで独自の鋭いきらめきを持つと考えるのだ。
あいみょんサウンドの「人懐っこさ」
しかし同時に、私が指摘したいのは、そんな切っ先鋭いコトバには一見似つかわしくない、あいみょんサウンドの「人懐っこさ」である。
まずはボーカルの声質。独特のハスキーな声質で、聴けば聴くほど病みつきになるのだ。
いくつかのインタビューであいみょんは、好きな音楽家として、スピッツ(草野マサムネ)や浜田省吾を挙げている。彼らからの影響なのか、彼らに似たハスキーでストレートな歌い方が、あいみょんボーカルの魅力に直結していると思う。
次にアレンジ。アコースティックギターを中心に置きながら、落ち着いたテンポをキープする、しっとりとした親しみやすいアレンジが特徴である。
テンポについては、BPM(1分間の拍数)で、『貴方解剖純愛歌~死ね~』が約165と速いが、それ以外のシングルはおしなべて、100から110くらいのミディアムテンポで統一されている(ちなみに『君はロックを聴かない』の中に「♪僕の心臓のBPMは190になったぞ」というパンチラインがあるが、BPM190とはRADWIMPS『前前前世』レベルの相当な速さだ)。
この点に関して、あいみょんのプロデューサーである鈴木竜馬氏はインタビューで以下のように語っている。
さらに注目したいのがコード進行である。今回、この原稿を書くにあたって、先のシングル群のコード進行を確認してわかったことは、最近のヒット曲にしては、コード進行が異常にシンプルなのだ。
シングルの中で唯一短調(マイナー)の『愛を伝えたいだとか』を除く、長調(メジャー)の7曲をCに移調して比較すると、全曲が基本、C、F、G、Am、Emなどのベーシックなコードで構成されている。複雑なコードや突飛な転調で埋め尽くされるJポップ界の中で、ポップスの教科書のようにシンプルなあいみょんのコード進行は一層際立つ。
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