ペテン師と「大圧縮」と--オバマ大統領は市場から国家へ急旋回

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NYSE(ニューヨーク証券取引所)と並ぶ米国資本主義の「二枚看板」、NASDAQ(現ナスダックOMXグループ)の元会長が、実は大ペテン師だった--。

これほど端的・明快に、米国資本主義が“煮詰まってしまった”ことを指し示す事件はあるまい。

バーナード・マドフ、70歳。電子取引のパイオニアとしてNASDAQをハイテク最先端市場に押し上げた大立者だ。自らも投資ファンドを主宰し、顧客は米国ユダヤ人社会のとびきりのセレブたちだった。

年会費25万ドルの超一流ゴルフ場、パームビーチ・カントリークラブのメンバーたち。映画監督のスピルバーグや大リーグのNYメッツのオーナー、ノーベル平和賞の受賞者も、大の“お得意様”だった。

ところが、元会長は運用などしていなかった。顧客への分配金は、続々押し寄せる新顧客の入金から払っていたのである。ねずみ講である。セレブたちが被った被害総額は500億ドル(4・5兆円)。「おかしい」という声は以前から上がっていた。「公開された運用実績をチェックしたら、174カ月でマイナスは7カ月だけ。打率9割6分。そんな打率のバッターなどいるわけがない」(ボストンの調査会社のアナリスト)。

にもかかわらず、プロ中のプロのヘッジファンドや、“堅い”ことで定評のある英HSBCやスペインのサンタンデール銀行も引っかかった。切羽詰まっていた、のである。

足元の歴史的な低金利は、資本の煩悶を映している。グローバリズムとは、ITと国際交通革命を両輪とし、歴史上かつてないスピードで世界中の投資機会を蕩尽(とうじん)するシステムだ。資本は猛烈な勢いで積み上がり、結果、1単位当たり資本の利潤=利潤率は急降下し、投資機会の消滅がその低下に拍車をかける。

自己増殖できない資本は資本ではない。道理も倫理もかなぐり捨て、身悶えするように資本が向かった先が、あの反社会的なサブプライムローン、そして、ねずみ講ということだろう。資本主義=市場は、自己破壊に突き進んでしまったのである。

FRBも財政も急膨張

「ワシントン・コンセンサス」から「北京コンセンサス」へ--。中国が声高に主張し始めている。

ワシントン・コンセンサスとは、金融と経済を挙げて市場に委ねる市場原理主義だった。対して、北京コンセンサスとは、国家が調整役として「慎重に市場改革を進めていく」システムである。コンセンサスの勝負はとっくについてしまっている。ほかならぬ、オバマ新大統領が目いっぱい、「北京」に傾斜しているのだから。

米財務省とFRB(連邦準備制度理事会)は「やれることは何でもやる」と腹を固めた。銀行への資本注入に続き、「バッドバンク」を設立して不動産担保債権や自動車ローン、クレジットカードなどあらゆる不良債権を金融機関から買い取ることを検討中。3カ月前は1兆ドルを切っていたFRBの資産が今はもう倍の2兆ドル。3兆ドル台乗せは時間の問題だ。

日本の「定額給付金」はさんざんの悪評だが、米国は一足先に、勤労者1人当たり500ドル、1世帯当たり1000ドルの給付を決めた。自動車産業への支援やインフラ投資にも数千億ドル。メディケア(低所得者向け医療保険)も拡充する。新大統領は緊急支援対策の総額を8250億ドルとしているが、誰一人、この枠内に収まるとは思っていない。

市場=資本主義が機能マヒに陥った以上、国家が前面に出るのは当然だろう。ただし、国家の膨張はタダではない。2008年度の米国財政収支は4550億ドルの赤字だったが、オバマ大統領の新年度はその赤字幅が1・2兆ドルに拡大する。GDP比8・3%は第2次大戦以来最悪だ。

しかも、これはお話の始まりだ。オバマ大統領自身、「何も手を打たなければ、見渡す限りの赤字となる」と率直に表明している。米国公債残高の対GDP比率は今年度51%だが、米議会予算局によれば、今世紀半ばには400%にハネ上がる。借金大国・日本(08年度末148%)も真っ青の水準である。

そのとき、世界の投資家は諾々と米国債を買い続けるだろうか。

「手を打たなければ」、国家の暴走に対して、市場の反乱が開始されることになると見るべきだろう。

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