ペテン師と「大圧縮」と--オバマ大統領は市場から国家へ急旋回

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いつか来た道

新大統領はどんな「手」を用意しているのだろうか。ヒントは、ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン教授にある。著書『格差はつくられた』の中で教授は、フランクリン・ルーズベルト大統領がニューディール政策と並行して、「大圧縮」を断行したことを明らかにしている。

大恐慌以前の米国は、現在同様、上位10%の人々が国民総所得の44%を握る大格差社会だった。ルーズベルト大統領が格差を「圧縮」した。富裕層への大増税によって、である。

最高所得税率は24%から63%、79%へ、そして、最終的には91%に引き上げられた。20%だった不動産税も77%になった。

この税制改革と戦時下の賃金統制(最低賃金の底上げ)が相まって、1950~60年代、「米国史上、例外的な中産階級の社会」が実現した。米国版「三丁目の夕日」の時代である。「規制や制度のほうが、市場の力よりもはるかに所得分配に対して影響力がある」(クルーグマン教授)。

いま再び、「大圧縮」政策に踏み切れば、財政赤字への強力な歯止めが構築できる(現在の最高所得税率は35%)。のみならず、「レーガン革命」で消滅した「中産階級の社会」を再生させる道でもある。リベラルな新大統領は就任演説で明言した。「富裕層を優遇するだけでは、国は長く繁栄することはできない」。

だが、もちろん、これでメデタシメデタシとは相成らない。“弾圧”される富裕層の反発を押さえ込むには、さらに強権的な国家が必要となる。しかも、戦後、「中産階級の社会」を実現した米国は、世界に屹立(きつりつ)する圧倒的な生産力を有していた。今の米国にその面影はない。

せっかくの拡張政策で創出した需要が、輸入として“漏出”しては元も子もない。米国は保護主義=国権膨張の衝動を抱え込むことになる。

新大統領は言う。「私たちの志の大きさに疑念を抱く人々がいる。今の制度ではそんな多くの大計画を達成するのは無理だと言う。だが、彼らは記憶力が乏しい人だ。想像力と目標が結びついたとき、自由な人々が何を成し遂げるか、この国が何を成し遂げたか、を忘れている」。

しかし、大恐慌後、強権化した国家が互いに“アウタルキー”のバリアを張り巡らせ、ついに、世界大戦に突入したのが、歴史の「記憶」である。市場vs.国家。市場の「自己破壊」から国家への期待が高まるにつれ、一歩足を踏み外せば、世界はもう一つの「自己破壊」に突き進むリスクと背中合わせになる。

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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