2大会派過半数割れ、親EU派の今後の戦略とは EU主要ポストで「ドリームチーム」誕生も

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今後のEU改革を主導したいマクロン氏がバルニエ委員長という腹心を得る場合、ドイツは代わりにECBの総裁ポストを狙いにいくだろう。ECBはドイツ連邦銀行(中央銀行)をモデルに設計され、伝統的に物価安定を重視するドイツにとって、総裁ポストの獲得はユーロ圏発足当時からの悲願だ。これまでも総裁ポストに意欲をみせており、今回もドイツ連邦銀行のイェンス・バイトマン総裁が有力候補だ。

デフレ転落の危機に見舞われたECBは数年前に政策金利をマイナス圏に引き下げた。マイナス金利とはつまり、お金を預けると利息を受け取るのではなく、罰則金利(手数料)を取られる状況を指す。銀行が中央銀行に預ける金利はマイナスになるが、個人にはマイナス金利を課しにくいため、銀行収益圧迫などの副作用があるとされる。ECB内では現在、副作用軽減措置として、マイナス金利の適用対象を限定する階層化などが検討されている。

このマイナス金利の階層化を主張するのが、フランス出身のビルロワドガロ氏だ。同氏がECB総裁に就任した場合、副作用を軽減したうえで、今後も長期間にわたってマイナス金利が継続する(金融緩和が長期化する)との観測を生むとみられる。

他方、ドイツ出身のバイトマン氏はタカ派(物価の安定を重視し、金融引き締めに積極的)の筆頭格として知られ、同氏が就任するとなると、金融緩和の縮小観測が高まりやすい。このように委員長ポストを誰が手に入れるかが、巡り巡って今後の金融政策運営にも影響してくる点は興味深い。

ウルトラCはメルケル氏のEU大統領就任

タカ派総裁の誕生が青色吐息のユーロ圏経済にとって劇薬すぎると考えられ、バイトマン氏が敬遠される可能性もある。その場合、ドイツは今回のEU人事で主要ポストを得ることができなくなる。委員長候補に名前の挙がるウェーバー氏が横滑りで欧州議会議長のポストを手に入れたり、欧州委員会の事務総長(官僚トップ)にドイツ人を充てるなどの話も浮上しているが、欧州委員会委員長やECB総裁と比べると見劣りする感は否めない。

そこでウルトラCとして浮上するのが、メルケル首相の欧州理事会常任議長(EU大統領)就任だ。メルケル氏は次の連邦議会選挙後に政界引退の意向を示唆しており、その後のEUポスト就任も否定している。だが、EU政界で同氏への待望論は根強い。欧州委員会のユンケル委員長は先日、メルケル氏が「尊敬される人物であるばかりか、愛すべき芸術作品である」と絶賛、EUポストの適任者であるとして秋波を送った。

ポピュリストに揺れるEUにあって、ドイツとフランスの大物政治家がタッグを組んでのEU再建には夢がある。ドリーム・チームの結成を見てみたいと思うのは筆者だけだろうか。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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