苛酷なロケから始まった「トリック」の14年 東宝・名プロデューサーが語る『トリック』の世界

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山内章弘  やまうち・あきひろ 東京都出身。東宝株式会社 映画企画部部長。テレビ部、映画調整部を経て、2012年より現職。主なプロデュース作品としてドラマ「トリック」全シリーズ、「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」など。映画では『トリック』全シリーズ、『電車男』『チームバチスタの栄光』シリーズ、『サイレン』『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』『デトロイト・メタル・シティ』『神様のカルテ』『モテキ』『プラチナデータ』など。近作は『神様のカルテ2』。

――その頃は推理物というフォーマットは意識していたのですか?

いえ、最初は意識していませんでした。霊能力を否定している手品師と、だまされやすい物理学者というコンビネーションということ。科学者たちが見破れなかった霊能力者たちのトリックを、ひとりの手品師が見抜いてしまったという実話。その面白さをドラマにできないかということでした。

――『トリック』といえば過酷なロケが語り草となっていますが、今回の海外ロケは大変だったのではないでしょうか。

「結局、海外に行っても洞窟か」とか、「どこに行っても因習に閉ざされた村なのか」など、いろいろ言われました(笑)。でも、それはそれで『トリック』らしくていいと思いましたけどね。ただ景色の違いだったり、川をさかのぼったりするような場面は今までなかったし、ああいう湿度の高いような、汗がにじむような画面もしばらくなかったのです。

最初の『トリック』は7月期のドラマだったので夏に撮影しました。だからけっこうみんな汗だくになっていて、それが画面にも反映しているのですが、その後のシリーズは秋や冬に撮影したものが多いのです。皆さんのイメージの中でも奈緒子の白いコートと、赤いマフラーの印象が強いのではないかと思います。これは阿部(寛)さんがよくおっしゃるのですが、汗がにじむような画が『トリック』の本道ではないのかと。そういう意味でも今回は1作目を思わせるものになりましたし、まさに、原点回帰にもなりました。

Vシネマよりも過酷なロケ?

――阿部さんは初期の撮影を振り返り、Vシネマの現場よりも過酷な現場だったと言っていましたが。

それはパート1のときの話ですよね。7月7日が初回のオンエアなのに、クランクインが6月21日だったんです。ありえないですよね(笑)。スタッフもキャストもみんな肉体がそのまま14年前だったので(笑)、乗り切れたのだと思います。「母之泉」のエピソードのときは、劇中で教団の建物となったロケ場所がそのままスタッフの宿泊所だった。本来は公共の宿泊施設で、会社とか学生さんの研修のために、大人数で宿泊するような施設なのです。そんな撮影現場にみんなが泊まり、明け方まで撮影して、倒れ込むように仮眠して、そのままむくっと起き上がり、そのまま撮影を始めるといった感じでした。阿部さんがおっしゃるのも、あながち冗談ではないのです(笑)。

(撮影:梅谷 秀司)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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