「世論市場化」に敗れた米国伝統メディアの危機 日本メディアでも「分極化」が起きるのか

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「メディアの分極化」の当然の帰結かもしれないが、偏った「政治ショー」がすでにアメリカ国民にかなり浸透し、政治の情報源になっている点は注意しないといけない。

2016年はじめのピューリサーチの調査によると、「選挙についての最も有用な情報源」(複数回答可)は「ケーブルニュース」が24%で1位を占め、2位以下には「ソーシャルメディア」(14%)、「地方局」(14%)、「ニュースウエブサイト・アプリ」(13%)、「ラジオ」(11%)と続き、その次に「地上波ネットワークのイブニングニュース」(10%)となる。その次が「深夜コメディ番組」(3%)、「地方紙」(3%)、「全国紙」(2%)となる。

ラジオが入っているのは、政治を話題にする聴取者参加型の「トークラジオ」がとくに保守を中心に広く聴かれているためだ。

ただ、相対的に言えば、まだ保守メディアの情報源は多くはない。保守の方はFOX NEWS、トークラジオ、さらには保守系ネットサイトに限られる。新聞の多く、そして、アメリカの放送の基準となる地上波の3大ネットワークのイブニングニュースもどちらかといえば、リベラル色が強いかもしれない。

それもあるのか、一般的な「メディア」という言葉には保守層には拒否反応がある。例えば、2018年のギャラップの「メディアを信頼するか」という調査では共和党支持者の21%だけが「信頼する」とし、民主党支持者の76%とは大きな差となっている。

「メディアの分極化」の病理

「メディアの分極化」について「多様なメディアがあることはいいこと」という見方もある。私自身も大学の教員として「私たちは複数のメディアを比べながら、メディア・リテラシーを養う必要がある」といつも言っている。

メディアを読み解く能力は確かに重要だ。ただ、それを大多数の人に課すのは、誤解を恐れずに言えば、一種のエリート主義である気すらする。

なぜなら、爆発的なソーシャルメディアの普及の中、多くの人々にとっては、逆に情報を読み解きにくい環境になりつつあるためである。アメリカではすでに、「テレビ対新聞対ネット」といった情報ではなく、ソーシャルメディアを通じてテレビや新聞の情報も広く伝播するような複合メディアの時代となりつつある。

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