「世論市場化」に敗れた米国伝統メディアの危機

日本メディアでも「分極化」が起きるのか

「メディアの分極化」の背景には、放送の「政治的公平性」をめぐる規制緩和が1980年代に進んだ影響もある。規制緩和は、つまり「政府からの自由」である。

その結果、世論という「市場」の変化の風向きを読みながら、1990年代以降、ラジオや、CATVや衛星の24時間ニュースチャンネル(ケーブルニュース)がとくに「メディアの分極化」が目立っていき、現在に至る。

この「メディアの分極化」で、支配階級がメディアの内容をコントロールする状況と同じように、アメリカでもメディアが「ゆがんだ鏡」となりつつある。「信じられない」という意味でまったく同じであろう。自由な分、その意味でたちが悪いかもしれない。

「メディアの分極化」の構造

かつては、アメリカの世論は現在よりもやや左寄りだった。公民権運動を含め、多様性を認めていく動きはアメリカという国の進歩そのものだった。新聞だけでなく、テレビでの報道もどちらかといえばリベラル寄りの情報が多かった。

一方で、南部や中西部を中心に保守層も存在していた。この層をめぐって、かなり保守に偏ったラッシュ・リンボーのトークラジオ(聴取者参加型のラジオでの政治情報提供番組)が規制緩和をきっかけに、ラジオが保守派の情報基盤として一気に注目されるようになった。

トークラジオは通常のストレートニュースではなく、政治、社会の争点に対してホスト(司会者)が意見を述べる。エンターテインメント性も高く、かなり感情的なものもあり、政治ショー的な要素が強い。

リンボーだけでなく、保守層向けのトークラジオ番組が多くの聴取者を獲得していった。これに対抗するように、リベラル派のトークショーも次々に登場し、2000年代にはAM放送だけでなく、FM放送や衛星ラジオでも政治トークラジオ番組が全米のラジオ番組編成の中核になっていった。

テレビも、かつてはなかったような政治的な偏りのある番組が1990年代以降、生まれていく。代表的なものが保守色の強い番組構成が「市場」をつかんでいったことで知られる、1996年に発足したケーブルニュースのFOX NEWSである。現在の看板ホストのショーン・ハニティがまさにそうだが、各番組のホストはそもそもトークラジオ出身者も数多い。

一方でリベラル層向けの偏ったテレビ放送も登場していく。代表的なものがMSNBCである。MSNBCはFOX NEWSと同じ1996年に発足したが、保守色が強い時代もあったが、2004年の大統領選挙あたりにリベラル市場に注目することで、その内容を一気に左旋回させている。CNNもここ数年、リベラル色が非常に目立っている。

国民を二分する政策である妊娠中絶や銃規制などについては、FOX NEWS とMSNBCは真逆に立場をとる。共和党支持者は保守メディアを信じ、リベラルメディアを「フェイク」とののしる。民主党支持者はその逆だ。ゲートキーパーとなるべきメディアが左右どちらかの応援団となってしまっている。

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