「世論市場化」に敗れた米国伝統メディアの危機

日本メディアでも「分極化」が起きるのか

それぞれの国・地域の報道の度合いは、ほぼ2年ごとにアメリカのシンクタンクのフリーダム・ハウスが発表している「報道の自由度」のランキングで知ることができる。最新版は2017年のもので、199の国と地域のうち、31%の61が「自由」であり、当然かもしれないが日本やアメリカ、西欧諸国、台湾はほぼ毎回、ここに分類されている。

72(36%)が「部分的に自由」とされ、ここには南米などの国が多い(かつては「自由」と位置付けられたこともある韓国も2017年調査では「部分的に自由」に分類されている)。そして「不自由」とされた66(33%)の国と地域にはロシア、中国のほか、中東やアフリカ諸国が多い(くだんのメキシコもここに位置する)。

「最も自由」とされたのがノルウェー、「最も不自由」とされたのは予想どおり北朝鮮だった。国の数ではなくて、その人口から考えてみれば「自由」な国に住んでいるのは、わずか13%にすぎない。「部分的に自由」が42%、「不自由」が45%と圧倒的な割合となる。

世界の大多数の国のメディアは社会を正確に映し出せない「ゆがんだ鏡」でしかない。

アメリカ型「メディアの危機」

アメリカに話を戻そう。このカテゴリーで言えば、そもそも「報道の自由」がある少数派の国・地域の1つがアメリカである。メディアは政治的から独立しており、本来は「メディアの危機」とは遠い存在であるはずである。

現代アメリカ政治とメディア』で伝えたかった、アメリカの場合の「メディアの危機」は、この一般的なパターンとは少し異なる。それは、むしろ政府から「自由」であるがために、起こってしまった悲劇とすら言えるかもしれない。

少し説明したい。アメリカの場合、過去30年の間で世論が大きく保守とリベラルの左右に分かれる分極化現象が極めて深刻になっている。国民世論が左右に分かれているこの現象は近年、そのペースが極めて速くなってきた。現在はアメリカ政治がかつて経験したことがないレベルの政党間の対立激化が深刻化している。

左右で政治的な価値観が異なる国民の分断がどれほど深刻なのかは、日本でもおなじみのトランプ大統領の支持・不支持の傾向をみれば明らかである。世論調査会社のギャラップが2019年4月17日から30日にかけて行った調査の場合、トランプ大統領の支持率は46%で、不支持率は半数の50%となっており、不支持のほうが多い。

しかし、党派別にみると、状況はまったく異なってみえる。同じ調査で「共和党支持者である」とする人の場合、「トランプ氏を支持する」としたのは91%と、これ以上にないレベルの高さである。これに対し「民主党支持者である」とする層の中で「トランプ氏を支持する」と答えた人は12%しかなく、両者の差はなんと79ポイントも差がある。無党派が37%で、ちょうど両者の中間に位置している形だ。

そもそも共和党と民主党の支持者の数はやや民主党のほうが多いが、国民のほぼ3分の1ずつであり、均衡状況を保っている。残りの3分の1は「無党派」だが、その中はほぼ均等に「共和党寄り」「民主党寄り」「(本当の)無党派」と分かれている。共和・民主いずれかの政党の支持ではない国民はほんの少ししかいない。

アメリカのメディアはこの世論の分断という変化に合わせながら、左右の政治的イデオロギーにその報道を呼応させるようにしていった。真実は1つであるはずなのに、メディア自身も分極化し、保守向けの政治情報、リベラル派向けの政治情報が提供されるようになってしまっている上述のように権威主義的国家なら、政府が報道の内容に介入する。

しかし、アメリカのメディアの場合、世論という「市場」に合わせて、政治情報をマーケティングしていった。これがアメリカ型の「メディアの危機」である。

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