「バブルの怪人」と債権回収人の死闘にみる教訓

『トッカイ』で清武氏が描きたかったこと

――「失われた20年」の大事件ですね。

山一の人たちもそうだったが、僕らが覚えているのは(組織の)トップの人だけですよね。官僚や政治家、財界人がオーラルヒストリーを残したり、自伝を書いたりしている。でも、大多数の庶民が「失われた20年」をどのように生きたのかについては、ほとんど書かれていない。しかも実名で。僕はそれを非常に残念に思っている。

昔、中坊さんが書いた本に『住専を忘れるな』(岩波ブックレット)がある。でも、見事に(住専のことを)忘れているよね。ある日突然、国民が住専破綻の責任を負わされて、巨額の税金を取られることになった。本来なら金融機関と住専、大蔵省(現・財務省、金融庁)を含めた行政が責任をとるべきで、そういう人々の問題ではないか。中坊さんの意見は「なぜ国民がその責めを負わなければいけないのか」というもので、非常に素朴な問いだったと思う。だから、みんな怒った。

公的資金の投入は当たり前なのか

後になって、もっと早く(住専に)公的資金を注入すべきだったという人がいる。でも一方で、大蔵省の寺村(信行、1992年から1994年まで大蔵省銀行局長)さんのように、「銀行が債務超過にならない限りは、やはり公的資金を投入すべきでない」という強い意見を持つ人もいた。

清武英利(きよたけ ひでとし)/1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、1975年に読売新聞社入社。青森支局を振り出しに、社会部記者として警視庁、国税庁などを担当。中部本社(現・中部支社)社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月より読売巨人軍球団代表兼編成本部長。2011年11月、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争に。著書に『しんがり』『石つぶて』『プライベートバンカー』など(撮影:尾形文繁)

公的資金が投入されるのは今は当たり前になった。でも、公的資金は税金。住専を忘れるなんていうのは、痛みを忘れるようなものだ。例えばナショナルフラッグ(日本航空)と言われるようなところなど、今はいろんなところに公的資金が投入されている。それが一つひとつ説明されて、みんな納得しているのか。

――中坊さんは「平成の鬼平」と当時、世間で祭り上げられました。

僕がいちばん書きたかったのは中坊さんではない。中坊さんに率いられて、いやいやながら、債権回収の仕事をやらざるをえなかった人々だ。彼らの中には中坊さんに対して強い反発を持っている人もいる。中坊さんは、住専が破綻して、まるで罪人のように言われていた時代に、自分たちが少し上を向くきっかけを作ってくれた人。とても言葉はうまいし、立派な方だけど、強引な手法とか、徹底的に(職員を)しごくわけですから。

その中で、整理回収機構の人々は、自分たちの意に染まぬ仕事をするわけ。必ずしもそこに行かなければならない人ではなかった。身を翻すことがうまくできなかった人たち、責任を自分でとろうという人たちがそこに残った。そういう人の顔を、僕も含めて見たことがなかったので。

3年半前にね、こういう話を聞くときに、非常に正直にいうと、鬱陶しかった。もう何かね、(取材や執筆を)やろうという気持ちはあるが、先のことを考えると、「3年もかけるのか」と(笑)。僕は1冊を書くのに3年をかけているので。

次ページ「津軽のバカ塗り」のようにひたすら話を聞く
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