――金融界を中心に、これまでの著書ではいろんな業界を題材に取り上げています。いま景気はいいように見えますが、日本の企業社会をどう見ていますか。
景気はいいんですかね。バブルの崩壊のとき、大蔵省銀行局長だった寺村さんが、野村證券の田淵(義久、1985~1991年まで野村證券社長)さんに尋ねたという。バブル絶頂の頃、株価が上がりすぎるような気がしますが、どうですか。大丈夫ですか、と。そうしたら、田淵さんは、そんなことがわかっていたら、野村證券の社長はやっていない。自分で株を買っていると。
僕はそうだったと思う。つまり、バブルのときに浮かれたとか言うが、先のことはわかっていなかった。大蔵省のオーラルヒストリーでも、「こんなに(株価が)どんどん下がっていくとは思わなかった」という。人間の知恵なんてそんなものだ。
山一破綻のときも、専門家という人が「一寸先は闇」というようなことを言う。一寸先は闇という前提に立って、人間は過去の教訓をすぐ忘れてしまうので、何か少し変だよね、という感覚を大事にする。
「第二の敗戦」で人々はどう生きたのか
――先の戦争では、数多くの従軍記が書かれました。今回のバブルも一種の「敗戦」だと思いますが、『トッカイ』も一種の敗戦記なのでしょうか。
僕にとっていちばん大きな事件は、バブルとバブル崩壊だった。僕の親父世代は戦争だと思う。戦争と戦後の繁栄が親父世代。親父が「第一の敗戦」とすれば、僕は「第二の敗戦」。僕も第一の敗戦記に関心はあるが、自分のやるべきことは、第二の敗戦で人々がどう生きたのか、それを残すこと。その中でも「後列の人」たちを選んでいる。
――『トッカイ』や『石つぶて』『しんがり』には、昭和への愛着という共通点を感じました。平成という時代が終わりましたが、振り返るとどんな時代だったと思いますか。
平成って混乱の時代だと思いません?混乱の中で、よく生き抜いてきた気がする。昭和の人は戦争を体験した人が多いので、最悪から始まっている。最悪からスタートしているから、話をしてみると、つねに上向き。戦争や共産圏の人への考え方、天皇制についての考え方も、戦争を基軸に考えている。僕とはまったく異質で、話すとけんかになったりしたが、最悪から自分の人生をスタートさせているので、つねに坂の上を行っている感じだった。
平成の時代は、下り坂の時代。どこまでも下り坂ではないので、いつかはなだらかに上がるはず。僕は、不良債権時代という大混乱の時代を切り抜けた人々の力、(不良債権問題という)戦争を終結させた人のことを思い出してもらいたいと思って、この本を書いた。
最近、やや流される時代になりつつある。あまり深刻にものを考えない。批判力が鈍磨している。僕もそうだけど、人々がリストラされて当たり前の時代なんておかしいよ。リストラでソニーがV字回復し、トップが巨額の報酬をもらったりする。それっておかしくないか。メディアも平気でV字回復と書くな、と思う。僕らメディアに関わる人間は、自分でものを考えないといけないと思う。
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