「根拠のない健康情報」はなぜ拡散されやすいか デマに加担しないためのリテラシーが必要だ

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この項では、実際にSNS上で「拡散」された誤解を生む情報の事例をご紹介していきます。もし、ご自分のSNSのタイムライン上にこうした情報が現れたら、どうやって「見極め」ればよいのか、考えながら読み進めてみてください。

2017年、ツイッター上で1つの投稿が話題になりました。

あるユーザーが「温泉評論家さんから聞いた話」を投稿したところ、広く拡散。投稿に付いたリツイートと「いいね!」の数はそれぞれ5万件以上に上りました。

「毎年、温泉で1万5000人が亡くなる」は本当か

内容を要約すると、次のようなものです。

・毎年風呂で亡くなる人は約2万人。5000人は自宅で、後の1万5000人は温泉などで亡くなっている
・防ぐには「旅館に着いたらお茶とお菓子をとる」「朝風呂の前には水分補給する」

本当だとしたら、とても重要な情報です。投稿した方も、誰かの役に立ちたいという思いからつぶやかれたのだろうと思います。ただ、もし情報が間違っていた場合、誤解が広がってしまう可能性もあります。そこで実際のデータを調べてみました。

まず調べたのは、厚生労働省の「人口動態統計」です。

1年間に亡くなった人の死因ごとにデータを公表しています。2016年の「不慮の溺死及び溺水」の数を確認すると、7705人となっています。川や海などでおぼれた人も含めての数ですので、入浴中のケースはもっと少なくなると考えられます。

溺死が交通事故(5278人)の死者数より多いというのは意外ですが、2万人と比べるとずいぶん少ないですね。ただこの数字には、入浴中に突然心臓発作を起こして、死因が「心臓病」となった場合などは含まれないのだそうです。

そこで、こうした入浴中の病気も含んだ死亡者数のデータがないか調べたところ、2014年に厚生労働省研究班による報告書が出されていることがわかりました。

報告書によると、病気なども含めた入浴中の死亡者数は、年間で1万9000人以上と推計されるとのことです。

ただし事故の8割以上は「自宅」で起きていました。さらに温泉地では、たとえ入浴中に異変があって救急車で搬送されても、心肺停止にまでは至らず救命される割合が多いとするデータがあることもわかりました。

考えてみれば、温泉地や銭湯など公衆浴場では、自分のほかにも入浴客がいるケースがほとんどです。異変が起きたとしても早く発見される可能性が高く、自宅より安全といえるかもしれません。つまりツイッターで拡散した「毎年、温泉で1万5000人が亡くなっている」という情報は誤りでした。

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