「葛根湯」という昔から愛されてきた漢方薬がある。ちょっと熱っぽいときなど、医師も処方をすることがある。また 第2類医薬品である葛根湯はOTC(Over The Counterの略、一般用医薬品)として医師の診断がなくても購入できる点で、眠くならない漢方薬として愛用者が多い。
「葛根湯は妊娠中でも飲める風邪薬」と書かれている健康情報を掲載したサイトもあるし、「妊娠中に風邪を引いてしまったのですが、病院の風邪薬は副作用が怖くて」との質問に「葛根湯という薬が効果的で安全だそうです」との回答が書かれていたサイトもあり、飛び上がって驚いた経験を筆者は持っている。
普段、筆者は薬の最新情報・薬の添付文書などから知見を得たうえで、時には過激とも思われる処方をする場合がないわけではない。しかし、妊婦さんという体も心も不安定な人に対しての処方は、まるで新生児に処方するがごとく慎重に慎重を重ねる。いくら副作用が少なく安全性が高いとされている漢方薬でさえ、である。
漢方薬の問題点とは?
漢方薬の問題点は通常の薬のような審査過程を経ずに保険収載された経緯があり、エビデンスも不十分である、との認識を筆者は医師になった当時、抱いていた。その後、副作用などの報告の蓄積が保険収載薬(いわゆる処方薬)の宿命として着々と積み上がってきている。
保険で処方される葛根湯の添付文書を読んでみよう。そこにはお決まりの「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」(ツムラ葛根湯エキス顆粒「医療用」添付文書より)と記されている。
妊婦さんに対して治験を行うわけにもいかないので、ほとんどの薬にこのような注意書きが書かれているが、妊娠というある意味で人生における大きなイベントのひとつに対して、「これは安全である」と言い切って葛根湯を自信を持って処方できる医師はかなりまれである。処方する医師は、よほど漢方に精通した医師か産婦人科医、あるいは勉強不足の医師であろうと筆者は考える。
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