「葛根湯は妊娠中に飲んでも安全」説の問題点 注意すべき成分が含まれている

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葛根湯に含まれる「麻黄」の主成分はエフェドリンである。エフェドリンの投与に熟練している医師は一部の臨床医を除けば、救急救命医くらいのものである。かつて「ダイエットサプリ」あるいは「ダイエットできる漢方薬」と称してエフェドリンを含む商品が販売されていた時期がある。米国ではエフェドリンが原因と考えられる死亡例が続出したために、2004年に麻黄を含むサプリメントの販売は禁止されている。

漢方医の考え方に「三禁」と呼ばれる妊娠中は忌避するべき状態、「発汗」「下痢」「多尿」がある。麻黄にはそのひとつである「発汗」を促す作用があるのだ。麻黄による発汗は葛根湯が風邪に効果があるとされる理由と考えられる。主作用自体が妊婦に使用するべきではない葛根湯を、「妊婦さんでも安心して飲めますよ」と平然と余計なお世話的に書いてある医療情報サイトは、はたしてその道に詳しい医師が書いたものか、強い疑いを持って読んだ記憶が筆者にはある。

葛根湯でドーピング検査失格となった例も

エフェドリンは交感神経を亢進させるために、筆者の専門である泌尿器科では「尿閉」と呼ばれる尿を出せない状態を引き起こすことが知られている。妊娠中に葛根湯を服用して尿閉が起こるか――そんな治験は倫理上許可されるわけがないので、エビデンスはないが、勉強不足の医師や自己判断で葛根湯を服用して思わぬトラブルが起きたではすまないのである。

ちなみにオリンピック代表選手が大丈夫であろうと思い込んで風邪薬を服用して、ドーピング検査で失格と見なされたことがあった。これも実は副作用がなく、体に優しいと考えて葛根湯を服用したからである。

一般の臨床医は必ずしも妊娠中に服用して安全性が確立、あるいは危険性がまれである薬の知識に乏しいのである。なぜなら、ほとんどの処方薬の添付文書には前述のように「妊娠中の投与に関する安全性は……」が書かれているからである。明らかに妊婦の生命のほうが、胎児の安全性より優先される事態など、産婦人科医あるいは救急救命医以外は経験することはない。

先日、閉鎖に追い込まれた健康情報サイトは「この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません」(現在は閉鎖されているWELQより)と小さな目立たない文字で記されていたことは記憶に新しい。

妊娠中に風邪を引いた場合はネットに尋ねるのではなく、友達に質問するのではなく、産婦人科を受診すること以外に正解はない。

桑満 おさむ 五本木クリニック院長、ニセ医学バスター

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くわみつ おさむ / Osamu Kuwamitsu

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に開院。〝日本一の町医者〟を目指し、地域密着型のクリニックを展開。またネットなどにはびこるニセ医学に危機感を抱き、エビデンスを用いて軽快かつ辛辣に論破していくブログで話題。NHK『チコちゃんに叱られる!』(2018年6月29日放送)にも登場するなど、活躍の場を広げている。

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