謎の島はもちろん、標識なんぞありやしない。そこで皇子はその島の正体を明かす天女を登場させ、それによってウソはぐっと迫真性を増してくる。出てくるタイミングもよすぎるし、島の名前だけを告げてすっといなくなるというのも変だし、名前もデタラメに決まっているが、この天女は皇子の話を裏付けるためのとっておきの小道具である。
そこまでのディテールが用意されてしまうと、かぐや姫だって一杯食わされそうになる。そして、真実を知っている読者の私たちは、その物語の中の物語を楽しみ、落とし穴はどこにあるのかな、とハラハラしながらさらにストーリーにハマっていく。
細かいところまですべて計算している
明らかにおかしいし、ところどころつじつまが合わないが、とにかく迫力のあるペテン師らしい話ぶりがこのエピソードを特徴付けている。見事な表現力を駆使して、作者はコトバに宿る力を見せつつ、臨場感あふれる、実にリアルな小芝居を実現してみせる。
対して、第一挑戦者のエピソードには和歌が多く引用され、文学青年のような仕上がりになっており、各登場人物にそれぞれの世界観があり、それぞれの話し方がある。ニホンゴでこんなことまでできるんだよと、言わんばかりだ。
神は細部に宿るというが、コトバの魔術師である作者はまさに細かいところまですべて計算している。かぐや姫は無理難題を言い渡すときの記述を改めて見てみると……
無料会員登録はこちら
ログインはこちら