もはや推理小説「かぐや姫」の壮大なカラクリ

随所に散りばめられた日本語のマジック

謎の島はもちろん、標識なんぞありやしない。そこで皇子はその島の正体を明かす天女を登場させ、それによってウソはぐっと迫真性を増してくる。出てくるタイミングもよすぎるし、島の名前だけを告げてすっといなくなるというのも変だし、名前もデタラメに決まっているが、この天女は皇子の話を裏付けるためのとっておきの小道具である。

そこまでのディテールが用意されてしまうと、かぐや姫だって一杯食わされそうになる。そして、真実を知っている読者の私たちは、その物語の中の物語を楽しみ、落とし穴はどこにあるのかな、とハラハラしながらさらにストーリーにハマっていく。

細かいところまですべて計算している

明らかにおかしいし、ところどころつじつまが合わないが、とにかく迫力のあるペテン師らしい話ぶりがこのエピソードを特徴付けている。見事な表現力を駆使して、作者はコトバに宿る力を見せつつ、臨場感あふれる、実にリアルな小芝居を実現してみせる。

対して、第一挑戦者のエピソードには和歌が多く引用され、文学青年のような仕上がりになっており、各登場人物にそれぞれの世界観があり、それぞれの話し方がある。ニホンゴでこんなことまでできるんだよと、言わんばかりだ。

神は細部に宿るというが、コトバの魔術師である作者はまさに細かいところまですべて計算している。かぐや姫は無理難題を言い渡すときの記述を改めて見てみると……

かぐや姫、「石作の皇子には、仏の御石の鉢といふ物あり。それを取りて賜へ」といふ。「倉持の皇子には、「東の海に蓬莱といふ山あるなり。それに、銀を根とし、金を茎とし、白き玉を実として立てる木あり。それ一枝折りて賜はらむ」といふ。「いま一人には、「唐土にある火鼠の皮衣を賜へ。大伴の大納言には、龍の頸に五色に光る玉あり。それを取りて賜へ。石上の中納言には、燕の持たる子安の貝取りて賜へ」といふ。
【イザ流圧倒的意訳】
かぐや姫は、「石作りの皇子には仏の御石の鉢というものがある。それを取ってきてほしい」という。「倉持の皇子には東の海に蓬莱という山があるらしい。そこで、白銀を根とし、黄金を茎とし、白玉を実にして立っている木がある。その木の枝を一つ折って、持ってきて頂戴」という。「阿部の右大臣には中国にある火鼠の皮衣をもらおう。大伴の大納言には竜の首に光る玉がある。それを頂戴。石上の中納言には燕が持っている子安の貝を取ってきてもらおう」という。
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