「男を家で食事させない」平安女の尖った恋愛観

現代にカムバックさせたい「枕草子」の美意識

よく考えると、昔の物語の中で食事のシーンはほとんどみられない。現代とは違う平安時代ならではの常識とは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)

遠く離れて暮らしているのでそう頻繁には会えないが、一週間に1回母と長電話するというのは私にできるせめてものデジタル親孝行である。話すというよりもモノローグに付き合っているといったほうが正確だが、つい最近のコールのトピックは買い物だった。地元よりスタイリッシュなお店が多いという情報を聞きつけて、母は近所のおばさんと電車で隣の町へ乗り込み、散歩がてら一目ぼれした靴を購入して、まんざらでもない気分で帰ってきたそうだ。

車社会のイタリアでは、10分足らずの電車移動でもプチ旅行気分を味わえるということもあり、還暦越えのおばさん2人組のやや興奮気味なご様子はきっと見ものだったに違いない。よく聞くと、アドベンチャーに出航する前に、2人そろって美容院を訪れて髪の毛をきれいにセットしてもらったそうで、「買い物に行くだけなのに……?」とみだりにつぶやいたら、「だって人様に会うんだもの!」と当然のように言われてしまった。

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パジャマに限りなく近い格好で近所のコンビニによく出没する身としては返す言葉が思い浮かばなくて、絶句。地球の反対側で娘が髪の毛ぼさぼさのまま人様に会っていると知ったら、母は気絶するかもしれない……。女を卒業する気がさらさらないイタリアのド田舎のおばさんたちの女子力の高さに喝采を。

イヴ・サンローランの言葉そのままの清少納言

こんなずぼらな私にも、母のオシャレ好き遺伝子がどこかに隠れているはずだと思って、もう少し頑張らなくちゃ!という気持ちが芽生えてきた。そこで、何をしたかというと、本棚からそっと『枕草子』を取り出してきたわけである。何事においても、最高の先生から学ぶというのは上達への近道。

「ファッションは廃れるが、スタイルは永遠だ」とイヴ・サンローランは言ったそうだが、それは1000年以上経ってもなお色あせない清姐さんのテイストにぴったりな言葉だ。きらびやかな色合い、息を飲む圧巻の風景や品のある仕草――。外出の機会がまれで、極めて狭い社会に生きていたにもかかわらず、姐さんの鋭い目線はどんな状況においても「美」を発掘することができ、それを見落としがちな凡人の私たちの前に差し出してくれている。

「女の表着は薄色。葡萄染。萌黄。桜。紅梅。すべて薄色の類」とか「唐衣は赤色。藤。夏は、二藍。秋は、枯野」とか、「織物は紫。白き。紅梅もよけれど、見ざめこよなし。(織物は紫。白。紅梅もいいけど、見飽きすることこの上ないわよ)」とか、その言葉はまさにパパッと色選びをしてくれるベテランスタイリストのようだ。当時の女房たちが着回しコーディネート術を身に付けるには、『枕草子』を熟読すれば十分すぎるくらいだっただろう。唯一悔やまれるのは、イメージ写真が付いていないこと……。

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