よく指摘されているが、倉持の皇子の話では、過去形として「けり」よりも直接体験であることを強調する「き」という助動詞が多用されている。前頁の短い引用文の中だけで4回も出てきている。ウソゆえに事実性を強調するという表現効果を狙っているわけである。まあ……お見事!
かぐや姫と結婚したいあまり、ウソをつくのはこの求婚者だけではない。現に5人の求婚者のうち、3人もウソをついている。倉持の皇子のほかに、仏の御石の鉢を求められた第一挑戦者、石作の皇子と、火鼠の皮衣を求められた第三挑戦者、右大臣阿部御主人も、それぞれ偽物の品を持参して、かぐや姫をだまそうとしている。
倉持の皇子のウソがバレなかったのは
しかし、倉持の皇子以外の2人はすぐに見抜かれてしまう。見るからに安っぽい鉢と、火をつけた瞬間にメラメラと燃えてしまう皮衣。疑い深い性格のかぐや姫は、差し出された品を徹底的に検証し、話の信憑性を自ら確認しているが、倉持の皇子の場合はそのような検証はいっさいない。
つまり偽物を持参し、そして結局それがバレて失敗に終わる、という点においては3人とも共通しているが、重要なのは、倉持の皇子の場合、彼の作り話は失敗の原因になっていない、ということである。
報酬を求める職人が現れてウソが暴かれる訳だが、そもそもかぐや姫がなぜ疑問を持たなかったかというと、やはりこの倉持の皇子という人は話がうまいからである。
例えば島にたどり着いたときの様子は次のように語られている。
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