もはや推理小説「かぐや姫」の壮大なカラクリ

随所に散りばめられた日本語のマジック

よく指摘されているが、倉持の皇子の話では、過去形として「けり」よりも直接体験であることを強調する「き」という助動詞が多用されている。前頁の短い引用文の中だけで4回も出てきている。ウソゆえに事実性を強調するという表現効果を狙っているわけである。まあ……お見事!

かぐや姫と結婚したいあまり、ウソをつくのはこの求婚者だけではない。現に5人の求婚者のうち、3人もウソをついている。倉持の皇子のほかに、仏の御石の鉢を求められた第一挑戦者、石作の皇子と、火鼠の皮衣を求められた第三挑戦者、右大臣阿部御主人も、それぞれ偽物の品を持参して、かぐや姫をだまそうとしている。

倉持の皇子のウソがバレなかったのは

しかし、倉持の皇子以外の2人はすぐに見抜かれてしまう。見るからに安っぽい鉢と、火をつけた瞬間にメラメラと燃えてしまう皮衣。疑い深い性格のかぐや姫は、差し出された品を徹底的に検証し、話の信憑性を自ら確認しているが、倉持の皇子の場合はそのような検証はいっさいない。

つまり偽物を持参し、そして結局それがバレて失敗に終わる、という点においては3人とも共通しているが、重要なのは、倉持の皇子の場合、彼の作り話は失敗の原因になっていない、ということである。

報酬を求める職人が現れてウソが暴かれる訳だが、そもそもかぐや姫がなぜ疑問を持たなかったかというと、やはりこの倉持の皇子という人は話がうまいからである。

例えば島にたどり着いたときの様子は次のように語られている。

これや我が求むる山ならむと思ひて、さすがに恐ろしくおぼえて、山のめぐりをさしめぐらして、二、三日ばかり見歩くに、天人のよそほひしたる女、山の中より出で来て、銀の金椀を持ちて、水を汲み歩く。これを見て、船より下りて、「この山の名を何とか申す」と問ふ。女、答へて言はく、「これは蓬莱の山なり」と答ふ。これを聞くに、うれしきこと限りなし。この女、「かくのたまふは誰ぞ」と問ふ。「我が名はうかんるり」と言ひて、ふと、山の中に入りぬ。
【イザ流圧倒的意訳】
追い求めてきた山は何かと思うと嬉しい反面恐ろしい感じもあり、二、三日ばかり周りを散策して様相を見ることにしました。そうこうしているうちに天人の服装をした女が、山から出てきて、金の椀を持ち、水を汲みながら歩いています。その姿を発見して船を降りて、「この山は何て言う名前なの?」と聞いてみたら「これは蓬莱の山だよ」というじゃないか。それを聞いたら嬉しくてたまらない気持ちになったわけですよ。この女は「あなたは誰ですか」と聞いてきて、そして「私の名前はうかんるり」と言って、すっと山の中に消えていきました。
次ページなぜ「天女」が出てくるかわかりますか?
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