もはや推理小説「かぐや姫」の壮大なカラクリ 随所に散りばめられた日本語のマジック

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要領がよく、財産もある倉持の皇子は、無駄に命を落とす可能性が高い冒険に出るのではなく、みんなをだますプランを緻密に練り上げる。旅に出たと偽り、しばらく身を隠している間に、かぐや姫の描写にそっくりな品を一流の職人に作らせる。

そして完璧なものが出来上がり、ウキウキしながらそれを持って自信満々に姫の屋敷を訪ねる。それを見たかぐや姫も、竹取の爺さんも、周囲の人もみんな誰一人疑わない。そこで、近場でぬくぬくと隠れていただけなのに、ペテン師らしく、あることないことを熱く語る。

かぐや姫も驚いた話しっぷり

命死なばいかがはせむ、生きてあらむかぎりかく歩きて、蓬莱といふらむ山にあふやと、海に漕ぎただよひ歩きて、我が国のうちを離れて歩きまかりしに、ある時は、浪荒れつつ海の底にも入りぬべく、ある時には、風につけて知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなるものいで来て、殺さむとしき。来し方行く末も知らず、海にまぎれむとしき。ある時には、糧つきて、草の根を食物としき。ある時は、いはむ方なく むくつけげなる物来て、食ひかからむとしき。ある時には、海の貝を取りて命をつぐ。
【イザ流圧倒的意訳】
死んだらそこまでだ、とりあえず命がある限り旅を続けたら、蓬莱やらという山にたどり着けるだろうと思って、船を漕いでわが国から離れていきました。あるときは荒い波にのまれて死にそうになり、あるときは風に流されて、「ここどこよ!?」というところに漂着し、あるときは鬼のような怪物が出てきて私を殺そうとしたんですよ。あるときは、帰る方向も進む方向もわからなくて、遭難しそうになり、あるときは、食料が尽きて、草の茎を食べる羽目になったんですよ。あるときは、気持ち悪い怪物が襲ってきて、この私に食いかかろうとしたんですよ。あるときは、貝をとって辛うじて命をつなぐことができたんですよ。

しつこいよ!と言いたくなるようなエピソードの羅列。かなり自分に酔っている感じがありありと伝わってくる。語れば語るほど自信が付き、楽しくなっちゃってあれもこれもディテールをつけたくなった、という心理が見事に表現されている。

襲い掛かってくる得体の知れない怪物だの、海をさまよっているという設定なのに草の茎を食べただの、支離滅裂な話だけど、聞いている人を魅了してしまう話術ゆえに妙に説得力を帯びている。

あえてしわくちゃな服を着て、ついさっき謎の島から戻ってまいりましたという顔をして竹取の爺さんの屋敷を訪れ、自らでっちあげた物語を披露する倉持の皇子。興奮しすぎて語尾に力が入り、気づかないうちに手が勝手に動いちゃうみたいな光景が目に浮かぶ。爺さんは大喜び、かぐや姫は御簾に隠れて、やばい……どうしようと思いながら頭が真っ白。

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