AIを使えば、「農業こそ休日」が現実になる 就業人口減少の裏で進むスマート農業の本当
農業にも働き方改革が求められる背景には、農業就業人口の減少がある。過去20年間でみても、2000年に389万人だった人口は、2016年に200万人を割り込み、2018年は175万人と減少が止まらない。基幹的農業従事者の平均年齢は66歳超。人手不足や高齢化は深刻であり、これまでの働き方を続けていくことが困難になっている。
「せっかく作っても人手が足りず収穫できない」。そうした農家の悩みを聞き、野菜収穫ロボットの開発に乗り出したのが、鎌倉市に本社を置く農業ITベンチャーのinahoだ。
不動産コンサルやWebサービスを手がけてきた菱木豊社長は、あるとき近隣の農家から、「雑草を取るロボットを作ってくれないか」と相談を受けた。さらに多くの農家にヒアリングする中、収穫の自動化に対するニーズが高いことを実感。農業分野に参入すべく2017年にinahoを設立した。
開発した収穫ロボットは自律走行型で、現在はアスパラガス向けが対象。地面から伸びている長さによって、収穫時期かどうかをAIで判断し、ロボットアームで刈り取っていく。日差しなどの環境が日々変化する中で、正確に収穫の是非を認識するのに苦心したという。
すでに佐賀県鹿島市に支店を設置。自動車で30分以内の農家を対象に、この5月から本格展開を始める。初年度は40台が目標だ。
機器は売らず、売上高の15%を徴収するモデル
当初は機器販売を考えていたが、初期投資の金額が大きくなると、農家の抵抗感も高まる。そこでロボットの収穫量に市場価格をかけた売上高の15%を徴収するビジネスモデルを採用した。ロボットには収穫した作物の重量を測定する機能が組み込まれている。
「売り切りではないので、バージョンアップも当社の判断で、機動的に行うことができる。性能が向上して収穫効率が高まれば、農家にもプラスになるし、当社の売上高もアップする」(菱木社長)。年間を通して稼働率を高めるため、今後は対象作物をキュウリやトマトなどにも拡大する。
ITやロボットを駆使した新たな農業は、「スマート農業」と呼ばれる。農業の産業構造を大きく変えるものとして、クボタやヤンマー、井関農機といった大手農機具メーカーから、上述した2社のようなベンチャーまで、多種多様なプレーヤーが開発競争を繰り広げている。
就業人口の減少に歯止めをかけ、産業として活性化させていくためには、新規就農者を増やしていかなければならない。いかにして、熟練農家のノウハウを新規就農者に伝えていくかは、農業にとって重要な課題だ。省力化に加え、熟練農家が持つ暗黙知の「見える化」という観点からも、ビッグデータ活用をはじめ、農業のIT化への期待が高まっている。
政府も政策面から後押しする。農林水産省では2013年に「スマート農業の実現に向けた研究会」を設置。内閣官房のIT総合戦略本部では2014年に「農業情報創成・流通促進戦略」を策定した。
そして、今年4月に本格稼働したのが、「農業データ連携基盤」(WAGRI)だ。
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