「私が社会人になってからは、ちょこちょこと『お金を貸してくれ』と言ってくることがありました。父は特殊な資格をもっていたので結構稼いでいたはずですが、女の人にばらまいたりして、すぐ使っちゃうんですよ。お金が入ると返してくれたり、おいしいお寿司をごちそうしてくれたりもしたんですけれど、私が貸したお金がそういうところ(女性たち)に利用されていたと思うと、ちょっと複雑な気持ちはあります」
父親の困った面もよくわかりながら、愛情ある口ぶりです。あゆみさんはこんなふうに、母親のことも父親のことも「個性的な面白い人」と捉え、大切に思ってきました。
互いの選択や好みを尊重してきた家族
表面だけを見たら、「よからぬ家族だ」と思う人もいるかもしれません。両親の離婚、その後の親たちの恋愛事情、父親から娘への度重なる借金の申し入れ――似たような境遇におかれ、親を恨み、苦しんできた人も世の中には多くいます。
なぜ、あゆみさんはこうもカラリと親を好いているのか? 興味が湧いて、あれこれ聞いてみたところ、なんとなくわかってきた気がしました。
まず、母親も姉もあゆみさんも、とてもマイペースで、「家族でもお互いに干渉せず、好きにやりましょう、みたいな感じ」で暮らしてきました。
「姉もそうでしたが、妹が生まれたときも『え? こんなお金のない時期にもう1人子どもを産んでどうするの?』みたいな気持ちはありつつも、『でも、お母さんがそうしたいんなら、そうすれば』という感じでした。母はシングルマザーになる選択をしましたが、子どもが不自由な思いをしないように、最大限の努力をしていたので」
相手を尊重するし、自分のことは自分でする。自分の言動の責任は自分でとる。ずっと、そういう文化で育ってきたのです。
「私や姉も、自分の選択や好みを尊重されてきたな、と思います。例えばランドセル。まだ赤と黒以外がとても珍しかった30年前に、姉は自分で選んだスカイブルーのランドセルを背負っていました。私は無難に紺を選びましたけれど(笑)。
それから、私は子どものとき運動会が大嫌いで。『もう絶対、運動会には出ない!』と言ったら、母は『そう、あなたは運動会が嫌いなのね』と言って、連絡帳に『この子は出られないと言っているので、出ません』と書いて休ませてくれました。いま思うと、そんな親も珍しいかなって(笑)」
いいお母さんだな、と思います。「甘い」と言う人もいるでしょうが、日本人は大体、やらなくてもいいことを我慢してやりすぎて、勝手に苦しんでいることが多すぎます。周囲に合わせるよりもっと大切なことがある、ということを、あゆみさんは母親の言動から学んできたのでしょう。
「姉も変わった人で、のんびり屋なんです。私は両親を見て『堅実に生きねば』と思って公務員になりましたが、姉はほとんど就職活動もしていません。怠け者なわけではなく、ある店でもう10年以上働いていて、始発で出て昼に帰ってきたら、午後は家で編集の仕事もして、ふつうに長時間労働です。正社員の、条件のいい話も何度かあったんですが、断ってしまった。姉の口癖は、『長生きしたい』です」
「結婚したい」でもなく「金持ちになりたい」でもなく「認められたい」でもなく、「長生きしたい」――。これ以上、人生にポジティブな願望があるでしょうか。お姉さんは生きているだけで幸せを感じることに、とても秀でたタイプなのかもしれません。
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