「出世すればするほど愚かになっていく」理由 問題解決を導く「名探偵OODA」の基本原則とは
これはビジネスの世界でも同様です。他社や顧客、社内の同僚が気づかないところを観察し、そこで得た情報を基に即座に行動に移すことで、ライバル企業に勝つことができるのです。
競争相手が気づいていないことを観察する
「戦略の多きは戦略の少なきに勝利する」
これは中国の『孫子』注釈者、張預の言葉です。ここでいう戦略とは孫子流の戦略であり、現代的に翻訳すれば、ジョン・ボイドの主張する機動戦略を意味します。機動戦略の要諦は次の2点に要約することができます。
②失敗しないために失敗する
まず、①の「戦わないために戦う」とは、より正確に表現すれば、消耗戦で戦わないために、機動戦略を駆使して戦うということです。機動戦略は、1回限りの作戦ではなく、状況を観察して臨機応変に対応するものです。それは、②の失敗しないために失敗する、と表現することができます。
つまり、致命的な失敗(=消耗戦への移行)をしないために、小刻みな試行錯誤、すなわちOODAループを回していくということです。それによって不確実性を削減し、競争相手との消耗戦を避けつつ確実に勝利するためです。
観察(Observe)ー情勢判断(Orient)ー意思決定(Decide)ー行動(Act)というOODAループのなかでもカギになるのが、最初の「競争相手が気づいていないことを観察する」ということなのです。
日本軍が第二次世界大戦で敗北したのも、こうした機動戦略をまったく採用せず、非現実的な計画、例えば、竹槍でB29を撃破せよ、一億総玉砕、神風が吹く、という幻想を国民に押し付けたからです。前回の記事「PDCAより「OODA」が日本で導入しやすい理由」で紹介した宮本武蔵の『五輪書』の教えがまったく生かされなかったといえるでしょう。
ビジネスにおける機動戦略では、現場情報をいかに観察し、収集することができるのかがポイントになります。
例えば、営業マンの場合でいえば、自社製品だけでなく競合製品の販売現場での動向をリアルタイムで観察していくことが重要になります。ライバル企業が価格を急に変えたり販促キャンペーンを仕掛けてきた場合、素早くその現場情報をつかみ、対抗策を練る必要があります。
開発現場でも同様です。前回の記事「PDCAより「OODA」が日本で導入しやすい理由」では、キーエンスの例を取り上げ、同社は開発情報という現場情報を素早く収集する仕組みを整備していることが、その開発力を支えるカギであることを指摘しました。
「自由は与えられるものではなく自ら勝ち取るものである」と、よく言われます。これは現場情報についても成り立ちます。鮮度の高い現場情報は与えられるものではなく、自ら勝ち取っていかなければならないのです。
このような鮮度の高い現場情報の収集メカニズムこそが、効果的な機動戦略、OODAループの起点となります。
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