「出世すればするほど愚かになっていく」理由 問題解決を導く「名探偵OODA」の基本原則とは

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鮮度の高い現場情報を頻繁に社内で発信している人は少ないのではないでしょうか。とくに、管理職の立場になり、出世すればするほど、現場情報から遠ざかってしまうことになります。管理職が扱う情報は下から上げられた二次情報のみであり、組織にとって不都合な情報は遮断されて入ってこなくなります。現場情報の観察の機会は、職位が上がるにしたがって減少し、OODAループを回すことができなくなっていくのです。

「人は出世すればするほど愚かになる」というピーターの法則の根拠はここにあるのかもしれません。

もちろん、部下が上げた情報に基づき計画を立て、その進捗状況をチェックし、指示することはできます。PDCAサイクルを回すことは二次情報でも可能だからです。ただし、鮮度の高い現場情報が反映されていなければ、そのPDCAサイクルは効果的なものではなくなるでしょう。

ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエはかつて「神は細部に宿る」と言いました。機動戦略にとっては、「神は現場に宿る」のです。

AIで二次情報を「観察」「情勢判断」する

もっとも、「神は現場に宿る」といっても、二次情報が重要ではないということではありません。問題は、二次情報のソースや情報量が膨大であり、その取捨選択に費やす時間とコストのムダになるという点です。

この問題を解決するために、OODAループの考え方に基づいて二次情報を迅速かつ効率的に収集する興味深い取り組みをしている会社があります。東大発のベンチャー、ストックマーク社です。

同社のAnewsというシステムは、最新の自然言語処理技術を用いて、膨大なWebニュースのテキストを解析することで、自社ビジネスを取り巻く環境をリアルタイムに観察(O)し、いま読むべきニュースをAIが毎日レコメンドしてくれるサービスです。

さらに、ただ情報を観察するだけではなく、OODAループの次の段階である情勢判断(O)、とくに「組織的な」情勢判断にも効果的につなげています。

Anewsにはセレクトされたニュースに対するコメントやメンション機能があり、「リスク」や「チャンス」といった判断フラグをメンバー間で共有することができます。ストックマーク社によれば、「AIにどんどん学習させることで、今後は自動でリスクやチャンス判定もされていく」とのことです。

OODAとAIとの融合は、主に観察、情勢判断の部分で生じます。実際、このAnewsを活用している企業からは、Anewsを活用することにより、OODAループを組織的に回していくきっかけとして役立てていることがわかります。とくに新規事業や経営企画部署において、新しい事業アイディアの創出や、社内でイノベーションを起こすカルチャー作りに活用されています。

従来の軍事領域でのOODAでは見られなかったAIを駆使した新しい展開が、ビジネスの領域ですでに気づかぬうちに進展しているのです。実際、Anewsを導入している企業は、三菱UFJ銀行、セブン銀行、トヨタ自動車、電通、帝人、TOTO、WOWOW、日立ソリューションズ、経済産業省など、すでに1000社を超えています。

このようなAIシステムが、デュパンの推理手法である「気づかないところを観察する」ことを可能にし、OODAループを高速で回すことを可能にします。不確定要素の高いAI時代のビジネスにおける機動戦では、ここで大きな差が出てくるのです。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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