キューバ、経済自由化に進む社会主義国の実情 私有財産を許可、4月に憲法改正案公布へ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

アメリカとの関係について話してくれた、同じくハバナ大学の学生であるアマンダ・オルマさん(20)の意見も興味深い。

キューバとアメリカの関係について話したアマンダ・オルマさん(筆者撮影)

「多くのキューバ人は、国家間の問題とは異なりアメリカに対して拒否反応があるわけではないんです。

むしろ、旅行に来るアメリカ人と積極的にコミュニケーションを図ろうとする人も珍しくありません。

私たちの先祖や親族は圧倒的にアメリカとの血縁があるわけなので。お互いを尊重したうえで、正式な友好関係の回復を望んでいます。

近年では、福祉国家として医療サービスを中南米諸国に輸入するために、医療の分野に関してはアメリカや海外の大学に留学する生徒も増えています。キューバ出身野球選手の亡命などのニュースも報道されているようですが、それはごく一部の話です。これだけ多様化が進む時代に、国家間の関係で個人のライフスタイルが限定されるのは、ナンセンスな部分もあると思うんです……」

生活に困らない少しの贅沢がしたいキューバ人

キューバ在住4年半の日本人である浅香ゆきさんは、キューバ国民の思考と、社会主義が継続されるであろうという理由をこう分析する。

「憲法にもあるように、キューバは社会主義を絶対に放棄しないと明言しています。そして、草案の段階では、『キューバは共産主義を目指す国である』という一節が外されたのに対し、各地区で3カ月にわたり行われた国民議論の結果、この一節が戻されることとなりました。

ですので、社会主義を放棄することを国民は望んでいません。そして共産主義を目指すことも放棄する気もありません。アメリカや多くの資本主義のように億万長者になれる社会にしてほしいというレベルではなく、生活に困らず、少しの贅沢ができる程度の収入が保証できる経済活動を許可してほしいという、それだけのことなんです」

キューバで話を聞いた人々は、政治への高い関心を持ち自身の意見を明確に述べることに秀でていたことが強く印象に残った。それは、ラテン気質でありながらほかの中南米諸国とは明らかに一線を画すものであり、高い教育水準を持ちながら社会主義国家として対外的に苦心を重ねてきたゆえの賜物であるのかもしれない。

本質を変えずに、改良することの難しさを国民たちも理解しているが、それでも変革のときは訪れる。彼らの声が、再びキューバに足を運びたいと思う原動力となっている。

(文中一部敬称略)

栗田 シメイ ノンフィクションライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事